「悪人の系譜」断片

この機会をお見逃しなく！

（新作の「悪人の系譜」から一部抜粋します）

　普通の家庭って、何歳ぐらいから親と風呂に入らなくなるのだろう？　ちょっと訊きにくい話題でもあるから、あんまり詳しく調べたことは無いんだけど。
　それはともかくとして、あたしは父親同然の叔父と中学三年生まで入浴していた。多分同級生にこれを話したら引かれるんだろうな、なんて思う。
　まあ、普通とは違う程度なら大したことないんだよ。でも、こういう生活習慣みたいなものって、自分が異常な環境下にいてもわからないところがあるから怖いんだよね。
　あれは小学四年生の頃だった。いつものごとく、あたしは叔父と一緒にお風呂へと入った。あたしは叔父の背中を流してあげるのが好きだった。
　でも、あれは本当に何だったのだろう。それまでは全然そんな兆候は無かったし、もしかしたらたまたま運悪く叔父のスイッチが入ってしまっただけなのかもしれない。
　叔父の背中を流していると、何か違和感のようなものを感じた。湯煙でよく見えないけれど、視界に見慣れないものが映った気がしたのだ。
　なんだろ？
　違和感の正体がわからなかったあたしは、そのまま自分の体を洗い始めた。叔父は先に湯船へと入るところだった。ふと見ると、湯船に浸かろうとしている叔父の体に変化があった。あれが、驚くほど太く、固くなっていた。
　まだそれを理解できていなかったあたしは、叔父が病気になってしまったのではないかと狼狽した。あたしの視線に気が付いたのか、お湯に沈み込もうとしていた叔父の体はピタと止まる。
　沈黙。
　気まずい。
　あっ……これって、もしかして、なんて思った時、叔父はこれまでに見たこともないくらい薄気味悪い笑顔を浮かべていた。
　その顔を見たあたしは、どこか覚悟を決めてしまったような気がする。
　あたしは知らなかった。この世界には性的な虐待があるということを。そんなおぞましいことを家族に平然とできるような人がいるということを。そして、自分がそういったものからいつも無縁でいられるとは限らないということを。