「長い寄り道」書評

牛野小雪氏の「長い寄り道」を読了しました。



本作は次回作の長編に入る前の息抜きのような立ち居地にある作品のようですが、実際に読んでみるとイイモノ書いたなあという印象です。

ご本人のブログで各短編のあらすじが説明されていますので、気になる人はここをクリックして下さい。

短編集という事であんまり踏み込んだ感想を書くとネタバレになってしまうため、簡単な所感を中心に綴っていきます。

「アーモンドの花」

これを読んで真っ先に思い出したのが氏の短編である「ぼくとリカルド: ふたりはともだち」ですかね（表紙が変わってる……）。




「ぼくと～」は氏がたしか読者に媚びたとか言ってた気がするのですが（笑）今回はより純文学的な側面を強くした感じで、ほどよく読者を突き放した感じがしました。読者からあーだこーだ言われそうなラストはいいですね。

「マリッジブルー」

個人的にはこの作品が一番好きですかね。天才がモノにならずにキャリアを終えてしまうところがかなりリアルに描かれています。八幡氏あたりが読んだら何て言うか聞いてみたい気もしますね。
ライブとか観ていて「コレが埋もれちゃうのか……」と愕然とした例を挙げたら枚挙に暇が無いですからね。

「猫と妻の思い出」

これは厭モノですね。読んでて最も暗くなる作品です。この作品の主人公はいわゆるマジキチ系の人なんじゃないかと勝手に思っています。ひとまず奥さんが（自分の中で）浮気をしている事にするじゃないですか。で、実際に起こった事を自分の脳内で作りかえる、みたいな。本当はそうなんじゃないかと思っています。

「ベンツを燃やせ」

いや～アナーキーなやつ来ちゃいましたね（笑）。嫌な上司をヒドイ目に遭わせる話ってなんでこんなに笑えるんですかね？ストーリーはシンプルなので一番読みやすいかもしれないですね。「俺達がやりたいのは、俺達が搾取されたベンツを完全に燃やすことだけだった」という一文は笑いましたね。
最後に主人公がドアを作る会社に入ったとか書いてあるんですが、毎回出てくるこの会社は何なんですかね？　大建工業？　ウッドワン？　ノダ？　建築業界にいた事もある私としては気になるところです。

全編を読んでみてやっぱり面白かったですね。

個人的な順位付けをするなら

①「マリッジブルー」
②「アーモンドの花」
③「ベンツを燃やせ」
④「猫と妻の思い出」
ですかね。人によって順位は全然違うでしょうから、そこがまた面白い。

今回は伸び伸びと書いている感じがしたというか、文芸書とかにしれっとこの作品のどれかが混じっていても違和感は無いと思います。

長編だと重いという方はこの短編からぜひお試しを。