出すか出さないか微妙な新作の断片
- 2021/03/08
- 01:28
わたしと彼には共通点があった。
それは、どちらもあらがえない不幸に見舞われたこと。
何度か会ううちに、彼はその生い立ちを語ってくれた。それは、想像を絶する人生だった。
彼は物心つくときには片親の家庭だった。
母親が身ごもった時、飲んだくれで暴力をふるう父親はこれから生まれてこようとしている彼の存在を知り、堕ろせと言った。
それに従わない母親にさんざん暴力をふるった父親は出ていき、そのまま姿を消した。
父親のいない子どもを産んだ彼女は両親から勘当され、身寄りのいない境遇になる。
母親から大切に育てられた彼は父親の愛情を知らず、クラスでも父親がいないことからイジメに遭い、ダークサイドへ堕ちていった。
暴走族になって喧嘩に明け暮れる毎日。それが彼の渇きを癒す唯一の方法だった。
喧嘩無敗で暴走族の世界で頭角をあらわした彼は、ヤクザも入り混じった暴走族同士の抗争で何人もの人間を半殺しにして少年院に収監される。
更生プログラムの一環としてとある牧師と話して、人を愛することの大切さを知った彼は、今までの人生を悔いてマジメに生きていこうと決心した。
少年院で勉強し、職業訓練も受けた彼は社会改善活動に熱心な社長に拾われて、そこからマジメな土建屋として生きてきたとのこと。
なんていうか、事実は小説よりも奇なりというか、本当にこういう人っているんだって、そんな感じだった。
彼はめったに自分の話をすることはないらしく、教会の告白にも似た行為をよりにもよってわたしみたいな女にしたせいで泣いていた。わたしも泣いていた。気付けば、涙がこぼれ落ちて止まらなかった。
その時思った。
ああ、この人はわたしなんだって。
運命に翻弄されて、暴風雨みたいな不幸に揺らいでいるボロい小舟。
二人が惹かれあったのも、よくよく考えたら必然的なことだったのかもしれない。
神様が、というよりは似たような運命同士が磁石みたいに互いを呼び寄せる現象。それがただのオカルトで済まされていいとは思わない。
わたしは彼に同情して、彼はわたしに同情していた。
二人が出会うのは必然だった。
――この人となら、
そんな想いが胸の中に小さな波紋を起こして、それがいつまで経っても消えなかった。
わたしは彼のことが本当に好きだった。
彼もわたしのことが好きだった。きっと。
もっと愛されたい。
傷付かないように封じてきた感情が、がたがたとわたしの心を、身体を揺らしていた。
――あなたが、好き。
何度も抱かれたのに、それを言えない自分がひどく不憫に思えた。
言えばすべてが終わってしまうような気がした。
つながったまま揺れても、身体の中にじんわりの広がる温かさを感じても、どこかで何かが消えてしまうような不安感は呪いみたいにわたしの中に居座っていた。
それは、どちらもあらがえない不幸に見舞われたこと。
何度か会ううちに、彼はその生い立ちを語ってくれた。それは、想像を絶する人生だった。
彼は物心つくときには片親の家庭だった。
母親が身ごもった時、飲んだくれで暴力をふるう父親はこれから生まれてこようとしている彼の存在を知り、堕ろせと言った。
それに従わない母親にさんざん暴力をふるった父親は出ていき、そのまま姿を消した。
父親のいない子どもを産んだ彼女は両親から勘当され、身寄りのいない境遇になる。
母親から大切に育てられた彼は父親の愛情を知らず、クラスでも父親がいないことからイジメに遭い、ダークサイドへ堕ちていった。
暴走族になって喧嘩に明け暮れる毎日。それが彼の渇きを癒す唯一の方法だった。
喧嘩無敗で暴走族の世界で頭角をあらわした彼は、ヤクザも入り混じった暴走族同士の抗争で何人もの人間を半殺しにして少年院に収監される。
更生プログラムの一環としてとある牧師と話して、人を愛することの大切さを知った彼は、今までの人生を悔いてマジメに生きていこうと決心した。
少年院で勉強し、職業訓練も受けた彼は社会改善活動に熱心な社長に拾われて、そこからマジメな土建屋として生きてきたとのこと。
なんていうか、事実は小説よりも奇なりというか、本当にこういう人っているんだって、そんな感じだった。
彼はめったに自分の話をすることはないらしく、教会の告白にも似た行為をよりにもよってわたしみたいな女にしたせいで泣いていた。わたしも泣いていた。気付けば、涙がこぼれ落ちて止まらなかった。
その時思った。
ああ、この人はわたしなんだって。
運命に翻弄されて、暴風雨みたいな不幸に揺らいでいるボロい小舟。
二人が惹かれあったのも、よくよく考えたら必然的なことだったのかもしれない。
神様が、というよりは似たような運命同士が磁石みたいに互いを呼び寄せる現象。それがただのオカルトで済まされていいとは思わない。
わたしは彼に同情して、彼はわたしに同情していた。
二人が出会うのは必然だった。
――この人となら、
そんな想いが胸の中に小さな波紋を起こして、それがいつまで経っても消えなかった。
わたしは彼のことが本当に好きだった。
彼もわたしのことが好きだった。きっと。
もっと愛されたい。
傷付かないように封じてきた感情が、がたがたとわたしの心を、身体を揺らしていた。
――あなたが、好き。
何度も抱かれたのに、それを言えない自分がひどく不憫に思えた。
言えばすべてが終わってしまうような気がした。
つながったまま揺れても、身体の中にじんわりの広がる温かさを感じても、どこかで何かが消えてしまうような不安感は呪いみたいにわたしの中に居座っていた。
スポンサーサイト