新作の断片
- 2020/05/05
- 11:06
いい感じで汗が出てきたので、控室の中をウロウロと歩きながら試合開始を待つ。
テレビを見ると、生放送を見に来た人たちも増えているのか、文字がゴシック体のコメントでうめつくされていて、わたしの姿はあんまりよく見えない状態になっていた。
ADみたいな人が「じゃあそろそろ時間ですので」というので、控室を出て会場の入口前で軽くステップを踏みながら待つ。無観客試合なので両開きの扉はすでに開けっ放しで、向こうにはライトアップされたリングが見えていた。
ふいに、会場が真っ暗になって、四方の壁にかけられたスクリーンに映像が流れはじめる。まさかの煽り映像。
「ネットに流れたあのコメントですけど、あれは本当に蜂谷ルナが書いたものなんですか?」
画面に大写しになったスクリーンショット。わたしがバカ発見機で拡散して大炎上した醜い舌戦の履歴。
「ちがいますぅ~。あんなの、書くわけないじゃないですかぁ~」
ウルウルした目で身の潔白を主張する蜂谷ルナ。殺意がわく。
「ほら、わたしって、昔からこういう攻撃に遭ってきたんです。別に何をしたわけでもないのに、こうやって自分の名誉を傷つけられて……」
「美人は大変だよね」というコメントが流れる。くたばりやがれと思った。
そんなわたしの思いはつゆ知らず、蜂谷ルナのサル芝居は続いていく。
「でもね、そんなわたしでも、闘いを通じて何かを伝えられると思うんです。そういう言葉の暴力っていうか、そういうものを克服できるんだって、みんなに伝えてあげたいんです」
「それなら最初っからキックだけでいいじゃん」
思わずねこ生風に呟いてしまった。同意見のコメントはスクリーンを流れない。みんな死んだらいい。
画面が切り替わり、「そして今回の対戦相手は」というナレーションが始まる。
流れる映像を見て、わたしは固まる。
というのも、わたしの名前とともに、合成映像やらフォトショマジックを使って、「元暴走族の総長」とか「ヤクザを半殺しにした」とかとんでもエピソードがこれでもかと流れていく。
「嫌いな奴ですか? そういう奴らはね、どんな手を使ってでもつぶしてきましたよ」
んなこと言ってねえわ。
合成映像と音声操作で作られた架空のわたしが、めちゃくちゃ尊大な態度で画面前でイキっている。わたし一人をつぶすのにどんだけ金かけてんだよ?
――やりやがったな。
そう思うも時遅く、煽り映像マジックでわたしはすっかり悪者になってしまった。スクリーンには「こいつが嘘を拡散した犯人でしょ?」とか「試合終わったら通報しようぜ」とか、色々と怖すぎるコメントが五月雨のように流れている。ネットこええ。
煽りスキルなら世界ランカーの蜂谷ルナが、わたしへの憎悪をこれでもかと煽ってくれた。どこがチャレンジマッチやねん。ただの公開処刑じゃん。
リング上に見たことのあるタレントが立っている。マイクを持ち、作り物っぽい低い声で語りはじめる。
「それでは本日のメインイベント、蜂谷ルナチャレンジマッチを行います」
メインイベントって、この試合しかないじゃん。
そんな想いは届かず、ダンディーな声でわたしの名前が呼ばれる。入場曲は痛みと苦痛についてしか歌わないあのバンドの曲で、つまるところ完全にヒール扱いだった。
自分で選んだわけでもないのにスクリーンに「ああ、もう入場曲で察したわ」とか「京さんに謝れ」とか辛辣なコメントばっかり流れている。情報操作って怖いね(棒読み)。
これぐらいの洗礼は予想していたので、リングインすると軽くサークリングして、再度その感触をたしかめる。とにかく、試合に集中してさえいればいい。
間もなく、蜂谷ルナの入場がはじまる。
扉の向こうから、スカート型に水着みたいな衣装をまとったルナがいた。スポーツブラには「蜜蜂」と書いてあった。ウソつけ、スズメバチだろ。どう見ても。
テレビを見ると、生放送を見に来た人たちも増えているのか、文字がゴシック体のコメントでうめつくされていて、わたしの姿はあんまりよく見えない状態になっていた。
ADみたいな人が「じゃあそろそろ時間ですので」というので、控室を出て会場の入口前で軽くステップを踏みながら待つ。無観客試合なので両開きの扉はすでに開けっ放しで、向こうにはライトアップされたリングが見えていた。
ふいに、会場が真っ暗になって、四方の壁にかけられたスクリーンに映像が流れはじめる。まさかの煽り映像。
「ネットに流れたあのコメントですけど、あれは本当に蜂谷ルナが書いたものなんですか?」
画面に大写しになったスクリーンショット。わたしがバカ発見機で拡散して大炎上した醜い舌戦の履歴。
「ちがいますぅ~。あんなの、書くわけないじゃないですかぁ~」
ウルウルした目で身の潔白を主張する蜂谷ルナ。殺意がわく。
「ほら、わたしって、昔からこういう攻撃に遭ってきたんです。別に何をしたわけでもないのに、こうやって自分の名誉を傷つけられて……」
「美人は大変だよね」というコメントが流れる。くたばりやがれと思った。
そんなわたしの思いはつゆ知らず、蜂谷ルナのサル芝居は続いていく。
「でもね、そんなわたしでも、闘いを通じて何かを伝えられると思うんです。そういう言葉の暴力っていうか、そういうものを克服できるんだって、みんなに伝えてあげたいんです」
「それなら最初っからキックだけでいいじゃん」
思わずねこ生風に呟いてしまった。同意見のコメントはスクリーンを流れない。みんな死んだらいい。
画面が切り替わり、「そして今回の対戦相手は」というナレーションが始まる。
流れる映像を見て、わたしは固まる。
というのも、わたしの名前とともに、合成映像やらフォトショマジックを使って、「元暴走族の総長」とか「ヤクザを半殺しにした」とかとんでもエピソードがこれでもかと流れていく。
「嫌いな奴ですか? そういう奴らはね、どんな手を使ってでもつぶしてきましたよ」
んなこと言ってねえわ。
合成映像と音声操作で作られた架空のわたしが、めちゃくちゃ尊大な態度で画面前でイキっている。わたし一人をつぶすのにどんだけ金かけてんだよ?
――やりやがったな。
そう思うも時遅く、煽り映像マジックでわたしはすっかり悪者になってしまった。スクリーンには「こいつが嘘を拡散した犯人でしょ?」とか「試合終わったら通報しようぜ」とか、色々と怖すぎるコメントが五月雨のように流れている。ネットこええ。
煽りスキルなら世界ランカーの蜂谷ルナが、わたしへの憎悪をこれでもかと煽ってくれた。どこがチャレンジマッチやねん。ただの公開処刑じゃん。
リング上に見たことのあるタレントが立っている。マイクを持ち、作り物っぽい低い声で語りはじめる。
「それでは本日のメインイベント、蜂谷ルナチャレンジマッチを行います」
メインイベントって、この試合しかないじゃん。
そんな想いは届かず、ダンディーな声でわたしの名前が呼ばれる。入場曲は痛みと苦痛についてしか歌わないあのバンドの曲で、つまるところ完全にヒール扱いだった。
自分で選んだわけでもないのにスクリーンに「ああ、もう入場曲で察したわ」とか「京さんに謝れ」とか辛辣なコメントばっかり流れている。情報操作って怖いね(棒読み)。
これぐらいの洗礼は予想していたので、リングインすると軽くサークリングして、再度その感触をたしかめる。とにかく、試合に集中してさえいればいい。
間もなく、蜂谷ルナの入場がはじまる。
扉の向こうから、スカート型に水着みたいな衣装をまとったルナがいた。スポーツブラには「蜜蜂」と書いてあった。ウソつけ、スズメバチだろ。どう見ても。
スポンサーサイト