嫌な短編「二次創作ノート」
- 2018/04/17
- 03:53
親父が、逮捕された。
新聞には父の悪行が面白おかしく文字となって踊り狂い、家はマスコミの人間と落書きやら下品な張り紙で埋め尽くされた。
罰……これが罰なのか。
親父の罪状は性犯罪だった。地方へ出張した際に、バス停にいた女子高生をレイプしたとのことだ。どこまで事実かわからない。というか、真相は知りたくない。
被害者には申し訳ないが、犯罪の被害を一番受けるのは被害者よりも犯人の家族なのかもしれない。品行方正とまでは言わないが、それなりに真面目に生きてきた。受験勉強だってしっかりやって来たし、生徒会の一員も務めたことがある。
だが、人生というものはこうも一撃のもとに葬り去られるものなのか。ポストには差出人不明の殺害予告やら中傷の手紙が大量に届いているし、毎朝玄関ドアには生ゴミやら糞尿がぶちまけられている。こっちは被害者なのに、近所の人間からは白い眼で見られる。
しかし何をやってくれたんだ親父よ。女子高生に手を出すぐらいだったらコスプレのある風俗にでも行けば良かったじゃないか。ひっそり楽しんでくれたら、俺達はこんなにも苦しまないで良かったのに。
特に心配なのは妹で、精神的にショックな上にネットでは「自分の娘が同じ目に遭ったらどう思うか教えてやろう」とか物騒な書き込みがあちこちでされている。そんな正当化を根拠に妹が陵辱されるのはたまらない。
家を出ると、知らない男が何かを叫びながら殴りかかってきた。
手近にあった石を顔面に投げると、男はそれこそレイプの被害者みたいな顔になっていた。きっと反撃されるわけがないと思っていたのだろう。もう一つ石を拾い上げると、男は真っ青になって逃げ出した。
無事では済んだが、このまま時が過ぎていくのはまずい。おそらく俺達家族は凄まじい差別の中で余生を過ごしていくことになるだろう。それこそ、人生を犯されるのだ。
これからどうやって生きていけばいい?
そう思って歩いていくと、向こうにやたらと黒いオーラを放っている男がいた。黒スーツに黒ハットをかぶっていて、正直殺し屋というか、明らかにまともじゃないタイプの人間に見えた。心が折れかけている俺に薬物でも販売するつもりだろうか。名前も知らない男を、半笑いのセールスマンと呼ぶことにした。
「お困りのようですね、ほっほっほ」
なぜ俺の心が読めるの?
そう思ったが、男は空気も読まずに話を続ける。
「あなたがお困りなのはよくよく承知しております。わたくし、世にも珍しい物品を扱っておりまして、あなたの人生を手助けさせていただきたいのです」
「薬物、ダメ、絶対」
言い捨てて、脇を通り過ぎようとする。すると、半笑いのセールスマンは続けた。
「別に薬物であなたを廃人にしようっていうんじゃありません。わたくしは本当にあなたの人生をお助けしたいのです」
これはあれか。実はどこかにウェブカメラが隠されていて、俺の行動がヌコヌコ生中継されているというパターンか。
「あなたのお父様が何をやったか存じております」
「有名人だからな。じゃあ」
「まあまあ、そうお急ぎになりなさるな。わたくしはあなたの人生を一変させられる商品を持っていますから」
幸運を呼ぶ壷でも出てくるのかと思ったら、半笑いのセールスマンは分厚いノートをカバンから取り出した。取り出してからノートの方がカバンよりも分厚いように見えるのはツッコまなかった。
「これをご覧下さい」
うさんくせえノートだな。そう思ってパラパラとページをめくっていくと、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
それは、俺の家族に関する歴史が詳細に書かれていたからだ。親父が逮捕された事件以降だけでなく、事件前の歴史までが詳細に書かれているのである。それは未来の日付まであった。
正気の沙汰でないかもしれないが、思えば俺自身があまりにも激変する人生の中にいたことで頭がおかしくなっていたのかもしれない。それとも、何か予知めいた力が働いたのか、記載されている未来が実現するものにしか見えなかったのだ。
201X年、俺の家は放火で全焼する。寝ていた母と妹は焼け死に、全身火傷を負って生きながらえた俺は毎日苦痛に呻きながらベッドでその一生が終わる時を待つ。そんな結末だった。
嫌な汗をかきながら、半笑いのセールスマンを見る。彼はやはり半笑いでこちらを見ている。バカにしているわけではないらしい。
ページをパラパラとめくっていくと、親父の犯行が詳細に渡って綴られていた。
某所バス停。天候はひどい雨だった。
親父は都内にある職場へと帰るためにバスを待っていたが、偶然居合わせた女子高生が雨で透けまくった制服姿で一人バスを待っていたため、欲望を抑えきれずレイプ。何発も中出しをしてから去って行った。
週刊誌に似たような記事があったが、どうせセンテンス・スプリング・マジックで大きく脚色されたものだと思っていた。だが、あの記事はおおよその事実を書いていたというのか。まったく信憑性の無いノートに、妙なリアルさを感じていた。
「その未来、変えたくないですか?」
呆然とする俺に、半笑いのセールスマンのセールスマンが半笑いのセールストークを仕掛けてくる。俺は笑えない。少しも笑えない。
だが、ノートに書かれていることは事実のように見えたし、未来も実現しそうに思えた。オカルトは好きでないが、野生の勘はこれが真実だと言っていた。
「今は大サービスのキャンペーンでしてね。かわいそうな運命を背負ったあなたに、このノートの使い方を教えて差し上げます」
無言で頷いた。こんな未来が実現するのは死んでも嫌だった。
「このノートはね、二次創作ノートと言うんですよ。ここに書かれていることは事実であり、未来で実際に起こることです。あなたが望もうと望むまいと」
こくこくと頷く。
「でもね、このノートを書き変えるとアラ不思議、過去まで行って歴史を変えることが出来るのです」
「そんな、バカな……」
「信じるか信じないかはあなたの自由です。ですが、まぎれもなくこのノートに書かれていることは起こります。まるで、デ○ノートのように」
半笑いのセールスマンは村上春樹みたいなセリフでサラっと危険なセリフを流した。なんなんだ。なんなんだあんたは一体?
しかし、半笑いのセールスマンが予告する未来もあながち外れていない気がする。事実として殺害予告なら毎日もらっているし、さっきみたいに正義の味方(笑)から襲撃される危険性だってあるのだ。親父よ、とことん何をしてくれてるんだ。
「しかし、だ」冷静になった俺は言った。
「もし過去を書き換えられるとして、それであんたに何のメリットがあるんだ? 自分で使えばいいじゃないか」
「なに、簡単なことです。わたくしはこのノートの恐ろしさを知っていますから、悪事に使われるよりは過ちを犯してしまった人を助けてあげようと思ったのです。わたくしは事実このノートで何度も過去を行き来し、遊んでいる内に道楽が無くなってしまいました。ですから、今回はちょっとした遊び心というか、地獄に堕ちそうな人を天国に連れて行くという慈善事業をしようというところですね」
「仮にそれが本当だとして、俺は大金は持っていない」
「そんなことは簡単ですよ。この時点に戻って来るまで、万馬券の一つでも当ててきて下さい。それで十分でしょう」
たしかにそれはいいかもしれない。どうせこの人生は終わったも同然だ。それならいっそ泥舟に乗ったつもりで過去を書き換えた方がいいのかもしれない。
バカバカしいとは思ったが、ノートに記載してある親父のレイプ事件を黒で塗りつぶすと、「俺が止める」と「それから三日後に万馬券を当てる」と書いた。はっきり言おう。ヤケだ。ヤケを起こしている。
半笑いのセールスマンが半笑いを75パーセントぐらいの笑いに変えた。そんなに器用なことをするぐらいだったら全笑いにすればいいじゃないかと思ったが、そんなことを思う間もなく周囲の風景が歪んで行く。
これが時間移動なのか。俺はふよふよと何もない空間を泳いで、知らぬ間に薬物にハマっていたオチなんじゃないかという思考をめぐらせていた。
雨が降っていた。
激しく雨が降っていた。
目の前の光景を見て、動悸が凄まじかった。
異次元を抜けると、そこはバス停だった。数十メートル先にあるそこは、俺達家族を地獄に突き落とした犯行現場だった。
それはまさしく、週刊誌で見たバス停……。驟雨に打たれるのも構わず、バス停までフラフラと歩いて行った。
バス停には確かに女子高生がいた。大きな瞳に、健康的な白い肌。それはまさしく、ネットで晒されていた被害者だった。紐型のリボンがついたブラウスは透けて下着が見えており、プリーツスカートは雨でひっついて滑らかな曲線を描いていた。
「ふふ、降られちゃいましたね」
早く逃げないとユー「ふふ、犯られちゃいましたね」になっちゃうよと思ったが、それをいきなり言っても信じてもらえないし、おそらく変質者として通報されてしまうだろう。それは避けないといけない。
「ここでは見ない方ですね」
狭い田舎のせいか、自分の狙いを見透かされたようでドキっとする。
「ああ、俺、東京から来たんだ」
「へえ、それじゃあこんな田舎で大変でしょう? バスが少なくて」
「ええ、いや、まあ……」
失敗した。二次創作ノートに記入する前に風俗でも行って女を知ってくるべきだった。品行方正に生きてきた俺は、女の子に慣れていない。平たく言うと、童貞だ。
「でも、君に会えたからいいところだと思うよ」
言ってからどこのスピードワゴンだよと思ったが、女子高生が赤くなったので密かに俺ナイスと思った。
しかし、童貞の思考が飛躍する瞬間というものは恐ろしいものだ。若気の至りというか、ミイラ取りがミイラになるというか、今でもこの思考の飛躍がなぜ起こったのか、アインシュタインあたりでもないと説明が出来ないのだと思う。
この女、ヤレる。
次の瞬間、俺は女子高生をベンチに押し倒していた。
溺れたようにその無垢な唇をむさぼり、濡れたブラウスをひきちぎった。飛んで行ったボタンが、ベンチに落ちて小さな音を立てた。
(中略)
「妊娠したらごめんね」
(中略)
雨は、いつの間にかやんでいた。
目の前で呆けた顔の少女は、虚ろな目で俺を見ていた。
俺を見ていた。
俺を見ていた。
その秘部からは罪の白が流れていた。
「虹が出来たらいいな」
護送車に運ばれる俺は、勃起しながらドナドナを歌っていた。
息子が、逮捕された。
(以下無限ループ)
こうして人類は事実上永遠を手に入れた。
二人のアダムが織り成す、禁断の果実の物語。
【了】
パクリ元参考文献
「夢の跡」
新聞には父の悪行が面白おかしく文字となって踊り狂い、家はマスコミの人間と落書きやら下品な張り紙で埋め尽くされた。
罰……これが罰なのか。
親父の罪状は性犯罪だった。地方へ出張した際に、バス停にいた女子高生をレイプしたとのことだ。どこまで事実かわからない。というか、真相は知りたくない。
被害者には申し訳ないが、犯罪の被害を一番受けるのは被害者よりも犯人の家族なのかもしれない。品行方正とまでは言わないが、それなりに真面目に生きてきた。受験勉強だってしっかりやって来たし、生徒会の一員も務めたことがある。
だが、人生というものはこうも一撃のもとに葬り去られるものなのか。ポストには差出人不明の殺害予告やら中傷の手紙が大量に届いているし、毎朝玄関ドアには生ゴミやら糞尿がぶちまけられている。こっちは被害者なのに、近所の人間からは白い眼で見られる。
しかし何をやってくれたんだ親父よ。女子高生に手を出すぐらいだったらコスプレのある風俗にでも行けば良かったじゃないか。ひっそり楽しんでくれたら、俺達はこんなにも苦しまないで良かったのに。
特に心配なのは妹で、精神的にショックな上にネットでは「自分の娘が同じ目に遭ったらどう思うか教えてやろう」とか物騒な書き込みがあちこちでされている。そんな正当化を根拠に妹が陵辱されるのはたまらない。
家を出ると、知らない男が何かを叫びながら殴りかかってきた。
手近にあった石を顔面に投げると、男はそれこそレイプの被害者みたいな顔になっていた。きっと反撃されるわけがないと思っていたのだろう。もう一つ石を拾い上げると、男は真っ青になって逃げ出した。
無事では済んだが、このまま時が過ぎていくのはまずい。おそらく俺達家族は凄まじい差別の中で余生を過ごしていくことになるだろう。それこそ、人生を犯されるのだ。
これからどうやって生きていけばいい?
そう思って歩いていくと、向こうにやたらと黒いオーラを放っている男がいた。黒スーツに黒ハットをかぶっていて、正直殺し屋というか、明らかにまともじゃないタイプの人間に見えた。心が折れかけている俺に薬物でも販売するつもりだろうか。名前も知らない男を、半笑いのセールスマンと呼ぶことにした。
「お困りのようですね、ほっほっほ」
なぜ俺の心が読めるの?
そう思ったが、男は空気も読まずに話を続ける。
「あなたがお困りなのはよくよく承知しております。わたくし、世にも珍しい物品を扱っておりまして、あなたの人生を手助けさせていただきたいのです」
「薬物、ダメ、絶対」
言い捨てて、脇を通り過ぎようとする。すると、半笑いのセールスマンは続けた。
「別に薬物であなたを廃人にしようっていうんじゃありません。わたくしは本当にあなたの人生をお助けしたいのです」
これはあれか。実はどこかにウェブカメラが隠されていて、俺の行動がヌコヌコ生中継されているというパターンか。
「あなたのお父様が何をやったか存じております」
「有名人だからな。じゃあ」
「まあまあ、そうお急ぎになりなさるな。わたくしはあなたの人生を一変させられる商品を持っていますから」
幸運を呼ぶ壷でも出てくるのかと思ったら、半笑いのセールスマンは分厚いノートをカバンから取り出した。取り出してからノートの方がカバンよりも分厚いように見えるのはツッコまなかった。
「これをご覧下さい」
うさんくせえノートだな。そう思ってパラパラとページをめくっていくと、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
それは、俺の家族に関する歴史が詳細に書かれていたからだ。親父が逮捕された事件以降だけでなく、事件前の歴史までが詳細に書かれているのである。それは未来の日付まであった。
正気の沙汰でないかもしれないが、思えば俺自身があまりにも激変する人生の中にいたことで頭がおかしくなっていたのかもしれない。それとも、何か予知めいた力が働いたのか、記載されている未来が実現するものにしか見えなかったのだ。
201X年、俺の家は放火で全焼する。寝ていた母と妹は焼け死に、全身火傷を負って生きながらえた俺は毎日苦痛に呻きながらベッドでその一生が終わる時を待つ。そんな結末だった。
嫌な汗をかきながら、半笑いのセールスマンを見る。彼はやはり半笑いでこちらを見ている。バカにしているわけではないらしい。
ページをパラパラとめくっていくと、親父の犯行が詳細に渡って綴られていた。
某所バス停。天候はひどい雨だった。
親父は都内にある職場へと帰るためにバスを待っていたが、偶然居合わせた女子高生が雨で透けまくった制服姿で一人バスを待っていたため、欲望を抑えきれずレイプ。何発も中出しをしてから去って行った。
週刊誌に似たような記事があったが、どうせセンテンス・スプリング・マジックで大きく脚色されたものだと思っていた。だが、あの記事はおおよその事実を書いていたというのか。まったく信憑性の無いノートに、妙なリアルさを感じていた。
「その未来、変えたくないですか?」
呆然とする俺に、半笑いのセールスマンのセールスマンが半笑いのセールストークを仕掛けてくる。俺は笑えない。少しも笑えない。
だが、ノートに書かれていることは事実のように見えたし、未来も実現しそうに思えた。オカルトは好きでないが、野生の勘はこれが真実だと言っていた。
「今は大サービスのキャンペーンでしてね。かわいそうな運命を背負ったあなたに、このノートの使い方を教えて差し上げます」
無言で頷いた。こんな未来が実現するのは死んでも嫌だった。
「このノートはね、二次創作ノートと言うんですよ。ここに書かれていることは事実であり、未来で実際に起こることです。あなたが望もうと望むまいと」
こくこくと頷く。
「でもね、このノートを書き変えるとアラ不思議、過去まで行って歴史を変えることが出来るのです」
「そんな、バカな……」
「信じるか信じないかはあなたの自由です。ですが、まぎれもなくこのノートに書かれていることは起こります。まるで、デ○ノートのように」
半笑いのセールスマンは村上春樹みたいなセリフでサラっと危険なセリフを流した。なんなんだ。なんなんだあんたは一体?
しかし、半笑いのセールスマンが予告する未来もあながち外れていない気がする。事実として殺害予告なら毎日もらっているし、さっきみたいに正義の味方(笑)から襲撃される危険性だってあるのだ。親父よ、とことん何をしてくれてるんだ。
「しかし、だ」冷静になった俺は言った。
「もし過去を書き換えられるとして、それであんたに何のメリットがあるんだ? 自分で使えばいいじゃないか」
「なに、簡単なことです。わたくしはこのノートの恐ろしさを知っていますから、悪事に使われるよりは過ちを犯してしまった人を助けてあげようと思ったのです。わたくしは事実このノートで何度も過去を行き来し、遊んでいる内に道楽が無くなってしまいました。ですから、今回はちょっとした遊び心というか、地獄に堕ちそうな人を天国に連れて行くという慈善事業をしようというところですね」
「仮にそれが本当だとして、俺は大金は持っていない」
「そんなことは簡単ですよ。この時点に戻って来るまで、万馬券の一つでも当ててきて下さい。それで十分でしょう」
たしかにそれはいいかもしれない。どうせこの人生は終わったも同然だ。それならいっそ泥舟に乗ったつもりで過去を書き換えた方がいいのかもしれない。
バカバカしいとは思ったが、ノートに記載してある親父のレイプ事件を黒で塗りつぶすと、「俺が止める」と「それから三日後に万馬券を当てる」と書いた。はっきり言おう。ヤケだ。ヤケを起こしている。
半笑いのセールスマンが半笑いを75パーセントぐらいの笑いに変えた。そんなに器用なことをするぐらいだったら全笑いにすればいいじゃないかと思ったが、そんなことを思う間もなく周囲の風景が歪んで行く。
これが時間移動なのか。俺はふよふよと何もない空間を泳いで、知らぬ間に薬物にハマっていたオチなんじゃないかという思考をめぐらせていた。
雨が降っていた。
激しく雨が降っていた。
目の前の光景を見て、動悸が凄まじかった。
異次元を抜けると、そこはバス停だった。数十メートル先にあるそこは、俺達家族を地獄に突き落とした犯行現場だった。
それはまさしく、週刊誌で見たバス停……。驟雨に打たれるのも構わず、バス停までフラフラと歩いて行った。
バス停には確かに女子高生がいた。大きな瞳に、健康的な白い肌。それはまさしく、ネットで晒されていた被害者だった。紐型のリボンがついたブラウスは透けて下着が見えており、プリーツスカートは雨でひっついて滑らかな曲線を描いていた。
「ふふ、降られちゃいましたね」
早く逃げないとユー「ふふ、犯られちゃいましたね」になっちゃうよと思ったが、それをいきなり言っても信じてもらえないし、おそらく変質者として通報されてしまうだろう。それは避けないといけない。
「ここでは見ない方ですね」
狭い田舎のせいか、自分の狙いを見透かされたようでドキっとする。
「ああ、俺、東京から来たんだ」
「へえ、それじゃあこんな田舎で大変でしょう? バスが少なくて」
「ええ、いや、まあ……」
失敗した。二次創作ノートに記入する前に風俗でも行って女を知ってくるべきだった。品行方正に生きてきた俺は、女の子に慣れていない。平たく言うと、童貞だ。
「でも、君に会えたからいいところだと思うよ」
言ってからどこのスピードワゴンだよと思ったが、女子高生が赤くなったので密かに俺ナイスと思った。
しかし、童貞の思考が飛躍する瞬間というものは恐ろしいものだ。若気の至りというか、ミイラ取りがミイラになるというか、今でもこの思考の飛躍がなぜ起こったのか、アインシュタインあたりでもないと説明が出来ないのだと思う。
この女、ヤレる。
次の瞬間、俺は女子高生をベンチに押し倒していた。
溺れたようにその無垢な唇をむさぼり、濡れたブラウスをひきちぎった。飛んで行ったボタンが、ベンチに落ちて小さな音を立てた。
(中略)
「妊娠したらごめんね」
(中略)
雨は、いつの間にかやんでいた。
目の前で呆けた顔の少女は、虚ろな目で俺を見ていた。
俺を見ていた。
俺を見ていた。
その秘部からは罪の白が流れていた。
「虹が出来たらいいな」
護送車に運ばれる俺は、勃起しながらドナドナを歌っていた。
息子が、逮捕された。
(以下無限ループ)
こうして人類は事実上永遠を手に入れた。
二人のアダムが織り成す、禁断の果実の物語。
【了】
「夢の跡」
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