せっかくの四月馬鹿なので個人出版界隈全域に無茶ブリをしてみよう
- 2018/04/01
- 07:00
――都内。
竹下通りで有名な駅で、私はある人を待っていた。ここでは個性的というか、アクが強すぎて世間からあぶれた若者も多数いる。なんでこんなに騒々しいところで会わないといけないのかと考えたが、彼女がここを待ち合わせ場所にしたのは必然だったのかもしれない。
弾幕のような雑踏でも、向こうから来るその人影はひどく目立っていた。腰まで伸びた美しい赤髪は透き通るようで、繁華街に降り注ぐ陽光を乱反射していた。明らかに美女なのに、周囲の人は自然と彼女をよけていく。
私の姿を見つけた彼女は、幼さの消し飛んだ顔で笑った。
「ひさしぶりね」
――高瀬佳代。
かつて、電書ちゃんと呼ばれていた女性である。

※画像は使いまわしイメージです。
――当たり前かもしれませんが、ずいぶんと大人びた見た目になりましたね。
そうね。あたしだっていつまでも夢見る少女じゃいられない。
――引退されたのが2017年7月7日でしたか。短い期間で人はここまで変わるものなのですね。
あたしが引退したのってそんなに最近だっけ? ウソみたい。なんだか随分と昔の出来事のように感じられるわね。
――最近はどのように過ごされているのですか?
普通にOLでもやろうと求人に応募したけど、書類選考の時点で髪の色を見て落とされたわ。この髪でOLの制服を着るってほとんどホラーみたい。
――それで今はパンクバンドに?
うるさいわね。何勝手に人をシド・ビシャスみたいに祭ってるのよ。普通の社会人は無理っぽいから最近は陶芸家を目指して山梨で修行中よ。叔父さんの別荘でね。
――それってただのニートでは?
うるさいわね。ニートっていうのは目標もなくフラフラと歩いている人のことを言うの。あのさあ、久しぶりに会った人に対して下世話な質問ばっかりしてるんじゃないわよ。
――(あんまり中身は成長してない?)それで最近は電子書籍の方は読んでいるのですか?
もちろんよ。電子書籍はあたしの家でもあり、母でもあるのだから。最近は電子書籍だけで食べていける人もチラホラ出て来てホント信じられないって感じ。最近書けなくなった誰かさんは毎月うまい棒が何本買える印税を稼いでいるのかしら?
――そんな事を言っているとまたあなたをネタにしますよ。それはそれとして、もう電子書籍界のアイドルとして「界隈」に戻るつもりはない?
そうね。アイドルにだって賞味期限があるわけだし、彼らだってもう自分で活動出来るじゃない。あたしのサポートなんか無くても。
――いや、案外そんなでもないですよ。こっちは油を撒く先が無くなったからちっとも盛り上がらない。
あのさあ、それが間違いだって言ってんのよ。あたしは火属性のアイドルなのであって、アンタの懐を暖める焚き火じゃないの。あたしが火をつけるのは男子のハートだけなんだから。
――そうですね(棒読み)。ところで引退についてはなぜ前触れもなく決意をしたのでしょうか? 私まで届いたタレコミによると、売れないアイドルをAVに出演させる某社から声がかかったとか?
はあ? 情報源はどこよ?
――日刊KDPスポーツです。(※嘘です)
あそこの人もしばらく遊んでバックレたわね。あたしだってそれぐらいしたかったわよ。でも、アイドルがそんな事出来るはずがない。だからあたしはあたしなりに責任を取ったの。
――そうですか。
ちょっと! 耳クソほじくりながら聞いてんじゃないわよ!
アンタ本当に失礼な野郎ね! 何しに来たの?
――ご安心を。あなただけでなく上司からも似たような事を毎日言われています。
本当に忌々しい男ね。ああ、なんでこんなクズのインタビューを受けちゃったんだろう、あたし……?
――後悔先に立たずです。ところであなたにプレゼントがあります。
プレゼント……?
――ええ。電書ちゃんは不思議の国のアリスがどういう経緯で書かれたか知っていますか?
簡単に言うとね、ルイス・キャロルという作家が知人の少女であるアリスのために作ったアドリブの物語なのですよ。それこそ、「奇書 狂狂まわる」とかノベルジャムみたいなアプローチでね。
しれっと自著宣伝してるんじゃないわよ。
――そこでです。私はまたお得意のメタを仕組み始めたわけですよ。今は4月1日じゃないですか。あなたが引退したのが7月7日の七夕です。そこで、再会の機会があってもいいじゃないかと。
はっ……?
――このインタビューは今日、世界中の誰でも見れるところに発表されます。というか、私のブログに掲載されます。そこでね、電書ちゃんを主人公にした物語を無償でプレゼントさせるのですよ。天の川を渡ってどこかに消えた、他でもないあなたに。
それは単にプレゼントに限らず、あなたに一夜の復活をしてほしいという短冊にもなります。それは燃えて、火属性のあなたに煙となって届く。
そんな、そんな無茶ブリが通用するの?
――私だってまったく自信がありません。事実、どういう媒体であなたにその短冊を届けるのか、それすらも皆目見当が付きません。でも、そんな想いがたくさん届いたら素敵じゃないですか? これが単にエイプリルフールのネタとして終わるのか、それとも嘘から出たまことになるかは知りません。でもね、知ってます?
なにを?
――あなたは自分で思っているよりも愛されているのですよ。それを伝えるためだけに今日は来ました。
インタビューなのかドッキリなのかよく分からない通達が終わった。振り返ると、電書ちゃんは呆然と立ちすくしていた。後ろからはただ視線だけが追いかけてくる。
これが本当に波を生み出すかは知らない。だけど、こうやって落とした小石が個人の利益を超えて波紋となり、時としてそれは本当に波を作り出す事を私は知っている。
想いの波が起これば、それはきっと素敵に見えるだろう。起こらなければ、ただそれだけだ。でも、それが何だと言うのだ?
それでも一石を投じる事に意味があるのだ。
7月7日。あなたはどんなプレゼントをする?
そしてあなたは覚えているのだろうか。いつか自分自身が言った言葉を。
「ねえ、あたしのために本をつくってくれない? あなたにしか作れない特別な本」
桜の花びらが風に乗って飛んでいく。
あの人も去った。この人も去った。でも、思い出は案外人の心に残っているものなのだ。
四月馬鹿?
俺は毎日馬鹿みたいな絵空事ばっかり書いて小銭を稼いでいるよ。
そして、それが嫌になった事は一度も無いよ。
今日の午後5時あたりから無料キャンペーン
竹下通りで有名な駅で、私はある人を待っていた。ここでは個性的というか、アクが強すぎて世間からあぶれた若者も多数いる。なんでこんなに騒々しいところで会わないといけないのかと考えたが、彼女がここを待ち合わせ場所にしたのは必然だったのかもしれない。
弾幕のような雑踏でも、向こうから来るその人影はひどく目立っていた。腰まで伸びた美しい赤髪は透き通るようで、繁華街に降り注ぐ陽光を乱反射していた。明らかに美女なのに、周囲の人は自然と彼女をよけていく。
私の姿を見つけた彼女は、幼さの消し飛んだ顔で笑った。
「ひさしぶりね」
――高瀬佳代。
かつて、電書ちゃんと呼ばれていた女性である。

※画像は
――当たり前かもしれませんが、ずいぶんと大人びた見た目になりましたね。
そうね。あたしだっていつまでも夢見る少女じゃいられない。
――引退されたのが2017年7月7日でしたか。短い期間で人はここまで変わるものなのですね。
あたしが引退したのってそんなに最近だっけ? ウソみたい。なんだか随分と昔の出来事のように感じられるわね。
――最近はどのように過ごされているのですか?
普通にOLでもやろうと求人に応募したけど、書類選考の時点で髪の色を見て落とされたわ。この髪でOLの制服を着るってほとんどホラーみたい。
――それで今はパンクバンドに?
うるさいわね。何勝手に人をシド・ビシャスみたいに祭ってるのよ。普通の社会人は無理っぽいから最近は陶芸家を目指して山梨で修行中よ。叔父さんの別荘でね。
――それってただのニートでは?
うるさいわね。ニートっていうのは目標もなくフラフラと歩いている人のことを言うの。あのさあ、久しぶりに会った人に対して下世話な質問ばっかりしてるんじゃないわよ。
――(あんまり中身は成長してない?)それで最近は電子書籍の方は読んでいるのですか?
もちろんよ。電子書籍はあたしの家でもあり、母でもあるのだから。最近は電子書籍だけで食べていける人もチラホラ出て来てホント信じられないって感じ。最近書けなくなった誰かさんは毎月うまい棒が何本買える印税を稼いでいるのかしら?
――そんな事を言っているとまたあなたをネタにしますよ。それはそれとして、もう電子書籍界のアイドルとして「界隈」に戻るつもりはない?
そうね。アイドルにだって賞味期限があるわけだし、彼らだってもう自分で活動出来るじゃない。あたしのサポートなんか無くても。
――いや、案外そんなでもないですよ。こっちは油を撒く先が無くなったからちっとも盛り上がらない。
あのさあ、それが間違いだって言ってんのよ。あたしは火属性のアイドルなのであって、アンタの懐を暖める焚き火じゃないの。あたしが火をつけるのは男子のハートだけなんだから。
――そうですね(棒読み)。ところで引退についてはなぜ前触れもなく決意をしたのでしょうか? 私まで届いたタレコミによると、売れないアイドルをAVに出演させる某社から声がかかったとか?
はあ? 情報源はどこよ?
――日刊KDPスポーツです。(※嘘です)
あそこの人もしばらく遊んでバックレたわね。あたしだってそれぐらいしたかったわよ。でも、アイドルがそんな事出来るはずがない。だからあたしはあたしなりに責任を取ったの。
――そうですか。
ちょっと! 耳クソほじくりながら聞いてんじゃないわよ!
アンタ本当に失礼な野郎ね! 何しに来たの?
――ご安心を。あなただけでなく上司からも似たような事を毎日言われています。
本当に忌々しい男ね。ああ、なんでこんなクズのインタビューを受けちゃったんだろう、あたし……?
――後悔先に立たずです。ところであなたにプレゼントがあります。
プレゼント……?
――ええ。電書ちゃんは不思議の国のアリスがどういう経緯で書かれたか知っていますか?
簡単に言うとね、ルイス・キャロルという作家が知人の少女であるアリスのために作ったアドリブの物語なのですよ。それこそ、「奇書 狂狂まわる」とかノベルジャムみたいなアプローチでね。
しれっと自著宣伝してるんじゃないわよ。
――そこでです。私はまたお得意のメタを仕組み始めたわけですよ。今は4月1日じゃないですか。あなたが引退したのが7月7日の七夕です。そこで、再会の機会があってもいいじゃないかと。
はっ……?
――このインタビューは今日、世界中の誰でも見れるところに発表されます。というか、私のブログに掲載されます。そこでね、電書ちゃんを主人公にした物語を無償でプレゼントさせるのですよ。天の川を渡ってどこかに消えた、他でもないあなたに。
それは単にプレゼントに限らず、あなたに一夜の復活をしてほしいという短冊にもなります。それは燃えて、火属性のあなたに煙となって届く。
そんな、そんな無茶ブリが通用するの?
――私だってまったく自信がありません。事実、どういう媒体であなたにその短冊を届けるのか、それすらも皆目見当が付きません。でも、そんな想いがたくさん届いたら素敵じゃないですか? これが単にエイプリルフールのネタとして終わるのか、それとも嘘から出たまことになるかは知りません。でもね、知ってます?
なにを?
――あなたは自分で思っているよりも愛されているのですよ。それを伝えるためだけに今日は来ました。
インタビューなのかドッキリなのかよく分からない通達が終わった。振り返ると、電書ちゃんは呆然と立ちすくしていた。後ろからはただ視線だけが追いかけてくる。
これが本当に波を生み出すかは知らない。だけど、こうやって落とした小石が個人の利益を超えて波紋となり、時としてそれは本当に波を作り出す事を私は知っている。
想いの波が起これば、それはきっと素敵に見えるだろう。起こらなければ、ただそれだけだ。でも、それが何だと言うのだ?
それでも一石を投じる事に意味があるのだ。
7月7日。あなたはどんなプレゼントをする?
そしてあなたは覚えているのだろうか。いつか自分自身が言った言葉を。
「ねえ、あたしのために本をつくってくれない? あなたにしか作れない特別な本」
桜の花びらが風に乗って飛んでいく。
あの人も去った。この人も去った。でも、思い出は案外人の心に残っているものなのだ。
四月馬鹿?
俺は毎日馬鹿みたいな絵空事ばっかり書いて小銭を稼いでいるよ。
そして、それが嫌になった事は一度も無いよ。
今日の午後5時あたりから無料キャンペーン
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