新作の断片

ゾンビは一本気

　ゾンビの目的はひたすら食べる事ですが、その一途さたるや、かなり注目に値するものです。
　普通の人換算で考えてみて下さい。メンタルが弱くなくても、いくつも挫折が重なれば人の心なんて簡単に折れてしまいます。
　ある日ミュージシャンを目指して上京したギタリストが、十年経ったらただの窓際係長になっていたり、作家を目指して文学を肴に酒を呑んでいた文士達は、今や他人の作品を酷評するだけの役立たずになっているなんていう事はザラです。アマゾ……もとい、誰でも夢が叶うわけではないのです。
　ですが、ゾンビは腕がもげようが足が腐り落ちようが、はたまた臓物が思い出のようにポロポロと零れ落ちても、文字通り這いつくばって本懐を遂げようとします。つまり、最後の最後まで人間の肉に食らいつこうと努力するわけです。
　一見おぞましい映像に見えるかもしれませんが、今どきこんなガッツの持ち主がいるでしょうか？　私は体が半分になっても諦めない人を見た事がありません。
　誰もが夢を叶えられるかと訊かれると、悲しいですがそれは違います。それは単純に才能の差であったり、努力の量や力を注ぐベクトル、ひどい時はちょっとした運が足りなかっただけという事もあったりもします。
　ですが、本当に往生際悪く死ぬ気で努力し続ければ、一番にはなれなくても、ある程度の爪痕は残せるものです。
　現在において成功者と言われている人も、大半は常人に耐えられないほどの辛酸を舐めて生きているわけです。あの時彼らが諦めていたら、今頃世間が手の平を返しているという事も無かったはずです。
　あなたには文字通り這ってでも目標に向かった事があるでしょうか？
　銃弾で撃たれても諦めなかった事があるでしょうか？
　体を真っ二つにされても本懐を遂げようと努力した事があったでしょうか？
　あなたはゾンビに対して差別的な目を向けているかもしれませんが、ゾンビからすればあなたはただの根性無しかもしれません。
　殺されてるけど離さない――それぐらいの精神的姿勢があれば、あなたの夢ももしかしたら叶うかもしれません。とにかく、本当に何かを成し遂げたかったら、人並みレベルの努力で満足しているようではダメなのですよ。