今日は微妙に昭和っぽい曲で。懲りずに毎日聴いています(笑)。
牛野さんも昭和っぽいしね。
移動やら隙間時間にスマホで書いているので、いつもより雑な書評になります。
牛野小雪氏の「エバーホワイト」を読了しました。時間が無いのであらすじはカットで。
今作でまず印象に残ったのは、
牛野小雪氏がついに性描写を解禁した事ですかね。
それも序盤から始まって、全編に渡って続いていきます。しかも
何気に描写が巧い(笑)。
なんとなく村上春樹の作風を思い出しましたね。最近牛野氏が話題にしていたのもあったので意識していたのかも。
本作ではドラッグやら依存症やらの話が出てくるのですが、やはり牛野クオリティなのか、そこにゴリゴリのアウトロー感は無く、どこかすっとぼけた匂いが漂っています(笑)。シリアスなところはすごくシリアスなんですけど。
ただあえて大胆な読み方をするなら、
本作のメインディシュはドラッグの話なんかではなく、主人公とヒロイン(長谷川さん)が織り成す転落と継承の部分ではないかと。
まあ、ドラッグをやったらダメだってのはみんな分かっているじゃないですか。ですが、薬物禍に堕ちる人にはその人なりのプロセスがあるのですね。長谷川さんが薬物の常用者だと知った主人公の正文は、ある意味長谷川さんを救うために仲良く中毒者と化すわけですね。太宰ズムという精神性でしょうか(←そんな精神性は無い)。
で、本作を読んでいると、
正文は明らかに長谷川さんの人格を引き継ぐステップを踏んでいます。
長谷川さんに童貞を捧げる事も、一緒に住んでいる事も、毎日ヤりまくって過ごす事も、全て人格を継承するための布石です。
愛した女を助けようとして、不器用なやり方しか出来なくて、一緒にドラッグに溺れて、互いの肉体にも溺れていく。それでも救えなくて、悔しくて、暴力を振るって、申し訳なく思って、
気が付いたら彼女は私の中にいる。そんな感じですね。
正文は長谷川さんと波長を合わせて、その人格を取り込んでいるのです。盗癖の方もガッツリ受け継いでしまっています(笑)。
話は逸れますが、ダメな奴にかわいそうと思ってはいけません。実のところ、
同情は他者の人格を感染させる原因となるのです。仕組みは省きますが、同情とは言わば自分の感情を他者と同じ周波数に合わせる行為なのです。
だからDVに遭った人は気付くとDVをする側に回っていたなんて事があるのです。これは人間に組み込まれたメカニズムだからです。
本作ではまさに正文が長谷川さんを食べて同化したがっている表記があります。牛野氏は本能的に人間の持つ構造を知っているのでしょう。
ちなみにですが、かわいそうだけでなく、
継続する怒りも人格を受信するアンテナになります。誰かを憎んで、憎んで、憎みまくって、どこかで相手を盛大にぶちのめし、ほんの少し申し訳ない気持ちになったらあなたはもうおしまいです(笑)。
だから同情というか、同じ波長を持つ負の感情は危険なのです。
私はそれを理解していながら危険な因子を盛大に盛り込んでいますけどね(笑)。
(例:「入間失格」、「泡姫ありえない」、「悪人の系譜」、「名無しの挽歌」他にも仕込んだと思われるけど忘れた)
無駄口はともかくとして、正文は色んな意味で長谷川さんを救い損ねて、しばらくして自分すらも救い損ねた事に気付いたのです。
そのラストは
「ノルウェイの森」よろしく、
一見もの静かに余韻を漂わせていながら、よくよく見るとえらく不吉なラストになるのです。
体が離れても、魂は共にある。……でも、それは
言い換えれば思い出と亡霊をいつまでも自分の心に住まわせる行為に他ならないのです。
さて、今回も作品を切る場所は絶妙で、省かれた余白部分について読者は好きなように想像を掻き立てられる仕組みになっています。
氏はすっとぼけたキャラではありますが、かなり入り組んだ計算を緩やかな文脈の中に韜晦するしたたかさを持っています。
表層的な部分だけ見てストーリー展開に文句を言っているようでは読み手としてはまだまだですよ(笑)。ああ、また余計な事を言いましたね。またAmazonカスタマーが荒ぶってしまいます。
冗談はさておき、今作は読みやすく、牛野氏にしては短めなんですかね。これぐらいの作品が一番とっつきやすいかもしれません。
11月17日現在ではまだ99円なので、この機会をお見逃しなく。
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