牛野小雪氏「黒髪の殻」書評
- 2016/06/26
- 00:46
先日リリースされました、牛野小雪氏の「黒髪の殻」を読了しました。
もの凄いペースで新刊を刊行している氏ですが、去年の内に書き溜めておいた作品みたいですね。
ストーリーをざっくりと。
主人公の正木正人(まさき まさと)君は喧嘩が原因で高校を辞めてしまいます。
生きる目的を無くしつつあった彼は、叔父の勧めで大工の見習いになります。「上原組」と書かれたボロ看板のついた、倉庫と家がくっついたような建物でガンコオヤジの親方と出会います。
親方はとても厳しく、同じ現場で働く仲間も「正人君は一週間も持たないだろう」と言われていました。みんな親方の手厳しい教育に逃げ出してしまうからです。
ところが正人君はヤンキーとはまた違う変なベクトルの反骨心があったようで、「親方に舐められたくない」という一心で仕事にのめりこみ、その才能を開花させていきます。そして、瞬く間に一人前の大工にまでなってしまいます。
親方の下から卒業した彼は、ツテで知った工務店の仕事を下請けのような形で請けて、生計を立てていきます。
(この辺の流れがやたらリアルなのですが、やはり牛野氏は建築系の会社に勤めているのでしょうか?)
そんなある日、彼の前にドアを作る会社で働いているというタケルが現れます。大阪からやってきたヤンチャそうな営業マンで、正人君はタケルと一緒に仕事をしていくうちに仲良くなっていきます。
そんなある日、正人君はタケルの恋人がDVに遭っているのを発見してしまいます。
現場を押さえた正人君は、鋭く研いだノミをタケルの腕に突き刺し、ボコボコに殴って半殺しにしてしまいました。
警察に捕まった彼は、厭世観に満ちながら裁判を待つ日になりますが……というお話です。
今作は牛野氏の作品では中編ぐらいにあたるんですかね。それでも一般の個人作家だと長編ぐらいのボリュームです。ゆっくり読もうかと思っていましたが、読みやすくあっという間に読了してしまいました。球種で言えば初速が大した事なくても途中からグングン伸びるタイプなのでしょう。
ネタバレ防止のため、あんまり詳しい事には触れませんが、今作は黒い牛野氏が戻ってきたなという印象です。ドアノッカーとか蒲生田岬みたいな、ね。
牛の柄と同じように、白い毛色の作品と黒いそれを使い分けられるようになっていますね。それも螺旋階段を登るように原点回帰しながら確実に上へと向かっている。
個人的には群像に載っていそうな作風だなと思いました。ただ、群像も枠の問題があるから、本当に載ったら「もっと削れ」って言われる可能性がありますけど。やはり持ち味は電子書籍だから生きる部分があるのでしょうね。
本作もちょっと危険というか、普通の読者は正人君の成長譚だと思って読むと思うんですよ。でも、この作品は知らぬ間に狂気の世界へと片足を踏み入れているようなところがあるというか、自分のメンタルがやられつつあるのを知らぬまま、読者が先へ先へと読み進めている危険性があるのですね。「気付いたらあたしルナティック!」みたいな(笑)。
一見完全なるイカレ野郎の話に見えるかもしれませんが、どこか他人事とは思えない、自分にも感染しうる狂気を感じるわけですよ。こういう作品は重心を後ろに置いて読まないと危ない。
極めつけは表紙ですかね。最後まで読んでからあの表紙を見ると、実はとんでもなく不吉な絵だった事がわかります。読み終わったらぜひ表紙を再確認してみて下さい。牧歌的なイメージがひっくり返りますよ(笑)。
危険な作品を読んだら私生活に不調を引き起こすという、意外に繊細な一面を持つ夏居暑氏には「心あったまるアウトロー小説ですよ」と言って勧めてみようかと思っています(笑)。
もの凄いペースで新刊を刊行している氏ですが、去年の内に書き溜めておいた作品みたいですね。
ストーリーをざっくりと。
主人公の正木正人(まさき まさと)君は喧嘩が原因で高校を辞めてしまいます。
生きる目的を無くしつつあった彼は、叔父の勧めで大工の見習いになります。「上原組」と書かれたボロ看板のついた、倉庫と家がくっついたような建物でガンコオヤジの親方と出会います。
親方はとても厳しく、同じ現場で働く仲間も「正人君は一週間も持たないだろう」と言われていました。みんな親方の手厳しい教育に逃げ出してしまうからです。
ところが正人君はヤンキーとはまた違う変なベクトルの反骨心があったようで、「親方に舐められたくない」という一心で仕事にのめりこみ、その才能を開花させていきます。そして、瞬く間に一人前の大工にまでなってしまいます。
親方の下から卒業した彼は、ツテで知った工務店の仕事を下請けのような形で請けて、生計を立てていきます。
(この辺の流れがやたらリアルなのですが、やはり牛野氏は建築系の会社に勤めているのでしょうか?)
そんなある日、彼の前にドアを作る会社で働いているというタケルが現れます。大阪からやってきたヤンチャそうな営業マンで、正人君はタケルと一緒に仕事をしていくうちに仲良くなっていきます。
そんなある日、正人君はタケルの恋人がDVに遭っているのを発見してしまいます。
現場を押さえた正人君は、鋭く研いだノミをタケルの腕に突き刺し、ボコボコに殴って半殺しにしてしまいました。
警察に捕まった彼は、厭世観に満ちながら裁判を待つ日になりますが……というお話です。
今作は牛野氏の作品では中編ぐらいにあたるんですかね。それでも一般の個人作家だと長編ぐらいのボリュームです。ゆっくり読もうかと思っていましたが、読みやすくあっという間に読了してしまいました。球種で言えば初速が大した事なくても途中からグングン伸びるタイプなのでしょう。
ネタバレ防止のため、あんまり詳しい事には触れませんが、今作は黒い牛野氏が戻ってきたなという印象です。ドアノッカーとか蒲生田岬みたいな、ね。
牛の柄と同じように、白い毛色の作品と黒いそれを使い分けられるようになっていますね。それも螺旋階段を登るように原点回帰しながら確実に上へと向かっている。
個人的には群像に載っていそうな作風だなと思いました。ただ、群像も枠の問題があるから、本当に載ったら「もっと削れ」って言われる可能性がありますけど。やはり持ち味は電子書籍だから生きる部分があるのでしょうね。
本作もちょっと危険というか、普通の読者は正人君の成長譚だと思って読むと思うんですよ。でも、この作品は知らぬ間に狂気の世界へと片足を踏み入れているようなところがあるというか、自分のメンタルがやられつつあるのを知らぬまま、読者が先へ先へと読み進めている危険性があるのですね。「気付いたらあたしルナティック!」みたいな(笑)。
一見完全なるイカレ野郎の話に見えるかもしれませんが、どこか他人事とは思えない、自分にも感染しうる狂気を感じるわけですよ。こういう作品は重心を後ろに置いて読まないと危ない。
極めつけは表紙ですかね。最後まで読んでからあの表紙を見ると、実はとんでもなく不吉な絵だった事がわかります。読み終わったらぜひ表紙を再確認してみて下さい。牧歌的なイメージがひっくり返りますよ(笑)。
危険な作品を読んだら私生活に不調を引き起こすという、意外に繊細な一面を持つ夏居暑氏には「心あったまるアウトロー小説ですよ」と言って勧めてみようかと思っています(笑)。
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