牛野小雪氏の
「幽霊になった私」を読了しました。
毎度毎度彼の筆力には驚かされるのですが、最近は10円ハゲをこさえるほど命を削って書いている模様で、ある日パタリと死んでしまうのではないかと心配になる事があります。
無駄口はさておき、ざっくりストーリー説明いきますね。
今作の主人公は
ヤナギモト・アキ。どこか作者に似たオーラを放つ中学生の女の子です。
アキの性格はのらりくらりとしているのですが、思春期特有の不安定さは抜群でして、ちょっとした事ですぐ傷付いてしまいます。
彼女は人生に意義を見出せなくなっていました。希望から絶望に突き落とされるというよりは、生まれながらの無気力と表現した方が近いのだと思います。ふと思い立って、「気が付いたら命を断っていました私」というタイプの人ですかね。
そんなアキはある日自殺を思い立ちます。自殺とは言うものの、普通の人が人生に絶望して死を考えるのとはまた別個の属性の人間というか、表現は難しいですが「じゃあ死ぬか」みたいな感じなんですね(笑)。
ただ死に方だけはロマンチックで、公園に捨ててあった
バスタブにユリの花を敷き詰めて、その有毒ガスでの自殺を企図します。
意識を失った彼女は自分が死んだ事を知りながら現世をフラフラとするのですが、ある日、まぎれもない自分自身がごく普通に生活しているのを見つけてしまいます。
……という話です。ここからは感想いきましょか。
今だから言える事ですが、前作の
「ヒッチハイク!:正木忠則君のケース」を読んだ時はよく出来ているけど
「ターンワールド」の亜流っぽい感じもするなあと思っていました。もう少しえげつない言い方をすると牛野氏ネタ切れ説が浮かんでいました。
(作品自体は非常によく出来ていたのでそれは黙っていましたが)
が、今作では牛野作品でありながらもまったく違う色を出してきました。
牛野氏はたしかアラサーぐらいの男性だったと記憶していますが、作品を読んでいると中学生の女の子が喋っているようにしか見えない。それでいて牛野氏になんとなく似ている(笑)。年の離れた妹がいたらあんな感じだったのだろうかと勝手に想像しながら読みました。
ネタバレ防止のためにあんまり深く言及は出来ませんが、
今作は牛野作品で抜群の後味の良さだったと思っています。今までの作品は、見る角度によってはえらい不吉な読み方も出来たのですよ。今回はそういうのが無かった。
ただ、相変わらずストーリー上のえげつなさ(読める人だけが味わえる魂が削られる感じ)は群を抜いていますね。私は描写がえげつない作品が多いですけど、
精神面のえげつなさだったら正直私でも躊躇うような峻烈さというか、まるで勝てません。
そりゃハゲだって出来るでしょうよ。今作の執筆後はしばらく休んだ方がいいでしょうね。自覚があるかどうかはともかくとして、あの作風は魂の削れ方が尋常じゃないと思いますよ。休み休みやらないと、壊れる。
話は盛大に逸れますけど、本作の終盤に似たような話があったのでちょっと書いておきます。
「幽霊になった私」では猫が出てきましたが、私は犬を飼っていました。
いい犬でした。良い時も悪い時も一緒にいてくれましたし、他の犬の相手をしていると妬いてくれるところなんかも人間みたいで好きでした。時々夜に吠えて寝不足になったり、イタズラで家中のゴミを散らかしたりとありましたが、ある意味犬は飼い主にとって子供のようなものです。
犬が10歳を超えたあたりですかね。
年のせいもあったのか、徐々に元気が無くなっていき、そろそろコイツも年なのか。そんな事を思いました。ですが、最近の犬は長生きです。
もう少しぐらい、5年は一緒にいられる時間があるだろう。そう思っていました。
ですが、そんな想いは容赦なく打ち砕かれました。ある日を境に、犬はどんどん元気が無くなっていきました。散歩でも歩かなくなる回数が増えて、まるで先に進みません。
――気付いた時には、末期癌でした。
絶望とともに、どこか腑に落ちたような気持ちがあったのも確かです。違和感は感じていましたから。その上で最善を尽くしたのだから、たとえ癌の発見が早まったとしても、その期間はたかが知れているでしょう。
最後の時間を大切に過ごしていく中で、私はよく言い聞かせました。
「お前は絶対に生きられる。
もしダメだったら、俺のところに戻って来い」
目を見て言いました。犬は困惑はしながらも、何かを伝えようとしている事だけには気付いていたようでした。
最期を迎えた時は「さよなら」ではなく「よくやった」と言ったのを憶えています。冗談でもなんでもなく、いつかもう一度会えると信じていたからです。
その犬が死んで何ヶ月か後になって、新しい犬が来ました。死んだ犬とは別にもう一匹の犬がいたのですが、新しい犬は元気が良すぎてまるで付いていけません。
年長の犬がいくらしつけようとしても、新参の犬は暴れまわって言う事を聞きませんでした。それが子犬というものです。
あれは雷が鳴っていた日だったと思います。
いつものように、新参の犬が家中で暴れまわって手が付けられませんでした。正直世話をしていた私も疲れきっていました。
新参の犬がなおも暴れまくっているまさにその瞬間、
誰もいないはずの空間から「ワン」という鳴き声が聞こえました。まるで、一喝するような、ね。
その一声で、先ほどまで暴れまわっていた子犬は大人しくなりました。不思議そうにキョロキョロと周囲を見回していたのをよく憶えています。
私と年長の犬は、「聞いたか?」と思わず人間同士のように顔を見合わせてしまいました。
なぜなら、その声はあの亡くなった犬のものだったからです。(ところで、犬でもビックリすると顔を見合わせる事はあるんですね)
誰もいないはずのそこには、亡くなった犬の遺影がありました。
……と、信じてもらえるかはかなり怪しいところですが、実話です。
案外ね、
あなたがもう一度会いたいと思っている誰かは近くにいるのかもしれませんね。
話は盛大に逸れましたが、そんな話があったのを思い出しました。
本作は
牛野氏の最高傑作候補の一つと言っていいでしょう。
彼は私よりも筆力が下だと思っているフシがあるのですが、とてもじゃないですが私にはあんな作品は書けません。というか、「もう普通にプロの筆力じゃん」と思うのですよね。
これからも伸び伸びと書いてもらい、牛野ワールドを展開させていって欲しいですね。
あと、命は大事にして下さいね。
あのタイプの作品は
際限なく書いていれば死んでしまうでしょうから。
追伸
FCブログを更新しようとしたらマイナビの広告で本著と同じ絵が出てきて驚きました(笑)。
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