「怪物少女フォーエヴァー」書評
- 2016/04/12
- 23:43
「山彦」で有名なヤマダマコト氏の新作を読了しました。タイトルは「怪物少女フォーエヴァー」です。
(バーじゃなくてヴァーです)
今回は珍しく短編集ですね。とは言っても、中編ぐらいのボリュームがありますけど。
まずは一作目の「ほうき星に触れるころ(1986)」 ですね。この話をざっくり説明するなら、役人の主人公の家に美少女が転がりこんで来て、実はそいつがバケモノで、そしてバケモノはもう一人近所にいて→つまり地球ピンチみたいな話ですね。
……はい、このままだと著者に撃ち殺されますね(笑)。大丈夫、ちゃんと感想を書きますよ。
短編なのであまりあらすじ的な話は書けないのですが、今作は珍しくラノベっぽい色付けをしてきたなという印象です。
どこかで聞いた事があるのですが、冴えない男のもとに美少女が転がりこんで~というタイプの話って、公募でやたら多いのだそうです。それをあえてやるあたり(彼がそれを知らないはずがない)ラノベのお約束要素をわざと踏襲したのかなという印象。
公務員である主人公の造形がちゃんと描かれていたので、少女との生活はリアルでしたね。そこは悪い意味でのラノベっぽさは無かったな、と。
前述の通り、この少女は一種のバケモノなのですが、彼女が持つ真の姿が明らかになるにつれて、説明くささもなく自然にストーリーが展開されていく手腕はお見事。お約束を散りばめながらも氏のカラーがはっきりと出ていました。
今作は純文学のカラーも少しあって、いい意味で不思議な味わいのある作品でしたね。お約束は多々あれど、その中でちょっとずつ軸をずらしているというか、独特な味付けです。
一つ難点を言えば、飛形点は高いのに着地が少し乱れたかな? という所ですかね。そこがちょっと勿体無い。
無理に短編にしないで長編にしてしまって良かったかもしれませんね。とはいえ面白かった。
二つ目の作品は「鳥葬」ですね。個人的にはこっちの方が圧倒的に好き。
これは傀儡師と呼ばれる少年、唯人(ゆいと)が石上という中年の相棒と不思議な旅をする話です。
この二人、死体に雑霊という仮の魂を入れて、死人を一時的に蘇らせる事が出来ます。ただ、死体に本人の霊魂が入っているわけではなく、その辺に漂っている霊を詰め込んでいるので、本当に死者ご本人が生き返っているわけではなく、一時的に蘇った肉体も時間が経過すれば二度目の死を迎えます。それでも大切な人を失ったクライアントは死人の蘇りを依頼します。
二人の前に現れるヨシノという少女。彼女の登場とともに、突如変化が始まります。
……というお話ですね。ジャンルで言えばややホラーですかね。
この短編では結構えげつない描写が出てきまして(人間の解体とか)、読んでて「ウッ」とくる場面もありました。こんな引出しもあったんですね。
死人を蘇らせる過程もリアルに描かれていて、良質なホラー作品という印象を受けました。
ほうき星よりはこちらの方がキャラも生き生きしているように見えたし、著者も書いていて気持ち良かったのではないかと思います。オチもいいし、着地が綺麗。こちらも長編でいけるんじゃないかと。
二つの作品を読んで、やはり氏はガッツリ作り込むタイプの作家なのだなと思いました。感性と勢いでダダダっていうタイプではないので、作り手の性格が良くも悪くも作品に出たなという感じです。
(ちなみに私は勢いでダダダっと書いて逆算的に理由やら動機をでっち上げるタイプです)
なんだかんだ言いましたが、やはり筆力はすごい。すごいだけに評価が辛くなるのはそれだけ外野から言いたくなる伸びしろを感じるからです。
短編集でこれだけの作品を出されると、私もうっかり駄作を書けないな、といい刺激になりますね。
ホラー色が強い作品ですが、食わず嫌いせずに読んでみて下さい。
あ、あと最後に一個だけ。
「山彦」とか「テーブルの上のスカイラーク」の書評で書き忘れていましたが、ルビは実装した方がいいと思います。わなびさんから変な因縁をつけられる可能性があるので。
今回はこんなところで。
(バーじゃなくてヴァーです)
今回は珍しく短編集ですね。とは言っても、中編ぐらいのボリュームがありますけど。
まずは一作目の「ほうき星に触れるころ(1986)」 ですね。この話をざっくり説明するなら、役人の主人公の家に美少女が転がりこんで来て、実はそいつがバケモノで、そしてバケモノはもう一人近所にいて→つまり地球ピンチみたいな話ですね。
……はい、このままだと著者に撃ち殺されますね(笑)。大丈夫、ちゃんと感想を書きますよ。
短編なのであまりあらすじ的な話は書けないのですが、今作は珍しくラノベっぽい色付けをしてきたなという印象です。
どこかで聞いた事があるのですが、冴えない男のもとに美少女が転がりこんで~というタイプの話って、公募でやたら多いのだそうです。それをあえてやるあたり(彼がそれを知らないはずがない)ラノベのお約束要素をわざと踏襲したのかなという印象。
公務員である主人公の造形がちゃんと描かれていたので、少女との生活はリアルでしたね。そこは悪い意味でのラノベっぽさは無かったな、と。
前述の通り、この少女は一種のバケモノなのですが、彼女が持つ真の姿が明らかになるにつれて、説明くささもなく自然にストーリーが展開されていく手腕はお見事。お約束を散りばめながらも氏のカラーがはっきりと出ていました。
今作は純文学のカラーも少しあって、いい意味で不思議な味わいのある作品でしたね。お約束は多々あれど、その中でちょっとずつ軸をずらしているというか、独特な味付けです。
一つ難点を言えば、飛形点は高いのに着地が少し乱れたかな? という所ですかね。そこがちょっと勿体無い。
無理に短編にしないで長編にしてしまって良かったかもしれませんね。とはいえ面白かった。
二つ目の作品は「鳥葬」ですね。個人的にはこっちの方が圧倒的に好き。
これは傀儡師と呼ばれる少年、唯人(ゆいと)が石上という中年の相棒と不思議な旅をする話です。
この二人、死体に雑霊という仮の魂を入れて、死人を一時的に蘇らせる事が出来ます。ただ、死体に本人の霊魂が入っているわけではなく、その辺に漂っている霊を詰め込んでいるので、本当に死者ご本人が生き返っているわけではなく、一時的に蘇った肉体も時間が経過すれば二度目の死を迎えます。それでも大切な人を失ったクライアントは死人の蘇りを依頼します。
二人の前に現れるヨシノという少女。彼女の登場とともに、突如変化が始まります。
……というお話ですね。ジャンルで言えばややホラーですかね。
この短編では結構えげつない描写が出てきまして(人間の解体とか)、読んでて「ウッ」とくる場面もありました。こんな引出しもあったんですね。
死人を蘇らせる過程もリアルに描かれていて、良質なホラー作品という印象を受けました。
ほうき星よりはこちらの方がキャラも生き生きしているように見えたし、著者も書いていて気持ち良かったのではないかと思います。オチもいいし、着地が綺麗。こちらも長編でいけるんじゃないかと。
二つの作品を読んで、やはり氏はガッツリ作り込むタイプの作家なのだなと思いました。感性と勢いでダダダっていうタイプではないので、作り手の性格が良くも悪くも作品に出たなという感じです。
(ちなみに私は勢いでダダダっと書いて逆算的に理由やら動機をでっち上げるタイプです)
なんだかんだ言いましたが、やはり筆力はすごい。すごいだけに評価が辛くなるのはそれだけ外野から言いたくなる伸びしろを感じるからです。
短編集でこれだけの作品を出されると、私もうっかり駄作を書けないな、といい刺激になりますね。
ホラー色が強い作品ですが、食わず嫌いせずに読んでみて下さい。
あ、あと最後に一個だけ。
「山彦」とか「テーブルの上のスカイラーク」の書評で書き忘れていましたが、ルビは実装した方がいいと思います。わなびさんから変な因縁をつけられる可能性があるので。
今回はこんなところで。
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