ヘリベマルヲ氏「悪魔とドライヴ」書評
- 2016/02/17
- 00:22
先日に紹介したヘリベマルヲ氏の新作「悪魔とドライヴ」を読了した。
分かっちゃいた事だが、やはり「悪魔とドライヴ」は紛れも無い傑作だった。
ストーリーを紹介しよう。
この物語の主軸となる人物は辻久太郎(つじ きゅうたろう)。公立高校の教師をやっていて、学生からは辻Qのアダ名で呼ばれている。彼は誰にも読まれない小説を一人で書いている。
ある日、田崎という老人から「Q」という名前のバーを任される。店番をこなしていると、激しい雨が降る日にずぶ濡れの女に襲われる。獄門島ちあり(ごくもんとう ちあり)――辻久太郎の教え子だ。
獄門島ちありはすっかり辻に夢中になっていて、「Q」に居座り続ける。ちありの扱いに困っていると、警察であり彼女の父親でもある獄門島宗介から、ちありの家庭教師と妻、千里の捜索を依頼される。
獄門島千里と辻の父親との知られざる関係とは? そして、辻の原稿をQ名義で発表し、ミステリアスな女子高生としてセンセーションを起こす獄門島ちありの運命は?
と、そんな話だ。本当はもっと複雑にストーリーが絡んでいるのだが、これ以上綿密なあらすじを書くとただの作品紹介になってしまうから程々にしておく。
さて、ここからは個人的な感想だ。
既報の通り、俺は本作の第一稿を読んで好き勝手文句を言ったわけだが、完成品として読んだ「悪魔とドライヴ」は格段に良くなった。
一番良くなった部分は純粋に読みやすくなった。
ヘリベ氏の文章は研ぎ澄まされて無駄が無い反面、読者が労力を使って行間を読まないといけないという弱点も併せ持っていた。特に「Pの刺激」では読者を突き放した感じが強かったと思う。
だが、本作においては格段にリーダビリティーが上がり、いい意味で敷居の低さを手に入れたと思う。
これだけは触れておきたい所があるので(そして俺以外には怖がって誰も触れないであろうから)書いておこう。本作では獄門島ちありが辻久太郎の書いた小説に朱を入れる――つまりは推敲や校正をするという話がある。
既報の通り、悪ドラ会は個人出版界隈の人間を集めて「悪魔とドライヴ」をブラッシュアップするという試みだった。実際に四方八方から来た意見をまとめたのはヘリベ氏自身だけど。
本人が狙ったのかどうかは知らないが、辻の原稿をちありがブラッシュアップする作業をやるという表現は、この悪ドラ会の試みを予言したものではなかったかと思っている。
そして、作中には辻の作品を「わたし達の作品」と呼び出すウザい女がいるのだが、これも自分で書かないくせに偉そうな態度を取る無能な編集者や自称評論家、その他文藝にまつわるいけ好かない奴らをあてこすったメタ的アプローチではないかと勘繰っている。
悪ドラ会の活動や、それを模倣して失敗するであろう半端者を前もって予測して本作を書いたのであれば、ヘリベ氏はとんでもなくシニカルなメタを(しかも予言的に)仕掛けたという事になるのかもしれない。そういった視点で見てみると、本作に別の深みが見えてくる。
他に思い出したのは村上春樹の1Q84かな。書いてから気付いたが、これも「Q」が入っているな。
そこでも似たようなエピソードが書かれていたが、辻久太郎がいかに優れた作家とはいえ、冴えない高校教師が書いた小説より、ミステリアスな女子高生(ちあり)が書いた小説として作品を出した方が売れてしまうのは致し方ない事だし、実際にそうなるだろう。
世間は表層的なところばかりを見ていて、そのくせ正直だ。俺も今になって女性名義で活動すれば良かったとちょっとだけ後悔している(笑)。
あんまりネタバレになるのもアレなので程々にしておくが、世間を巻き込んだ美少女作家Qのセンセーションは、思わぬ形で続いていく事になる。ちありがその後どうなったのか。それを想像するのも読者の楽しみだろう。
さて、何度でも言うが本作は間違いなく傑作だ。既に語り草レベルにまで個人作家の支持を得ている。まるで作中のQが起こしたセンセーションをなぞるように。
みんなのアイドルであるはずの電書ちゃんまでが公共性を放り出し専用記事を書くなど、異例の現象ばかりが起こっている。
(ただ、気を付けてくれ。彼女に褒められると決まって嫉妬に駆られたあの人から悪口を書かれるから)
別に俺の懐に金が入らなくてもいい。この作品がバカ売れしてくれて、一人でも多くの読者の琴線を動かし、爪痕を残してくれれば、それだけで俺は満足だ。
本作はいい意味でのインディーズ作品を代表するような作品になった。パルプ誌にチャンドラーがいたように、彼の功績は個人作家によって語り継がれる事になるだろう。
最後に、本作への色んな感想を覗いていたら、個人作家のくみた柑氏が素敵なイラストを描いていた。
(コピーは著作権的にまずそうなので彼女のツイッターを確認してくれ)
それで第一稿を読んだ時、ヘリベ氏に「こんな表紙どう?」みたいな提案を思い出した。

かなりやっつけだが、上の絵を俺はイメージしていた。
この絵に首から下があって、夏服で、雨でずぶ濡れになっていて、凛とした表情でこちらを睨み、銃を構えている(絵と全然違うじゃないかと言われそうだが、俺だって絵描きじゃないんだからそれぐらいは大目に見てくれ)表紙にしたらKDPホイホイになったんじゃないかと思っている。エロ同人誌で有名な濡れ透けなんちゃらをもう少しクールにした感じの。
作品の質は間違いないからヘリベ氏の作品で有名になりたいイラストレーターがいたら絵師として立候補してみるのもいいだろう。ただ、この思いつきはまだ本人にすらしていないから後で怒られるかもしれないけど(笑)。
とにかく、傑作だ。四の五の言わずに読め。
お前が個人出版というものを愛しているなら、この作品は間違いなく作家の魂に響くだろう。
分かっちゃいた事だが、やはり「悪魔とドライヴ」は紛れも無い傑作だった。
ストーリーを紹介しよう。
この物語の主軸となる人物は辻久太郎(つじ きゅうたろう)。公立高校の教師をやっていて、学生からは辻Qのアダ名で呼ばれている。彼は誰にも読まれない小説を一人で書いている。
ある日、田崎という老人から「Q」という名前のバーを任される。店番をこなしていると、激しい雨が降る日にずぶ濡れの女に襲われる。獄門島ちあり(ごくもんとう ちあり)――辻久太郎の教え子だ。
獄門島ちありはすっかり辻に夢中になっていて、「Q」に居座り続ける。ちありの扱いに困っていると、警察であり彼女の父親でもある獄門島宗介から、ちありの家庭教師と妻、千里の捜索を依頼される。
獄門島千里と辻の父親との知られざる関係とは? そして、辻の原稿をQ名義で発表し、ミステリアスな女子高生としてセンセーションを起こす獄門島ちありの運命は?
と、そんな話だ。本当はもっと複雑にストーリーが絡んでいるのだが、これ以上綿密なあらすじを書くとただの作品紹介になってしまうから程々にしておく。
さて、ここからは個人的な感想だ。
既報の通り、俺は本作の第一稿を読んで好き勝手文句を言ったわけだが、完成品として読んだ「悪魔とドライヴ」は格段に良くなった。
一番良くなった部分は純粋に読みやすくなった。
ヘリベ氏の文章は研ぎ澄まされて無駄が無い反面、読者が労力を使って行間を読まないといけないという弱点も併せ持っていた。特に「Pの刺激」では読者を突き放した感じが強かったと思う。
だが、本作においては格段にリーダビリティーが上がり、いい意味で敷居の低さを手に入れたと思う。
これだけは触れておきたい所があるので(そして俺以外には怖がって誰も触れないであろうから)書いておこう。本作では獄門島ちありが辻久太郎の書いた小説に朱を入れる――つまりは推敲や校正をするという話がある。
既報の通り、悪ドラ会は個人出版界隈の人間を集めて「悪魔とドライヴ」をブラッシュアップするという試みだった。実際に四方八方から来た意見をまとめたのはヘリベ氏自身だけど。
本人が狙ったのかどうかは知らないが、辻の原稿をちありがブラッシュアップする作業をやるという表現は、この悪ドラ会の試みを予言したものではなかったかと思っている。
そして、作中には辻の作品を「わたし達の作品」と呼び出すウザい女がいるのだが、これも自分で書かないくせに偉そうな態度を取る無能な編集者や自称評論家、その他文藝にまつわるいけ好かない奴らをあてこすったメタ的アプローチではないかと勘繰っている。
悪ドラ会の活動や、それを模倣して失敗するであろう半端者を前もって予測して本作を書いたのであれば、ヘリベ氏はとんでもなくシニカルなメタを(しかも予言的に)仕掛けたという事になるのかもしれない。そういった視点で見てみると、本作に別の深みが見えてくる。
他に思い出したのは村上春樹の1Q84かな。書いてから気付いたが、これも「Q」が入っているな。
そこでも似たようなエピソードが書かれていたが、辻久太郎がいかに優れた作家とはいえ、冴えない高校教師が書いた小説より、ミステリアスな女子高生(ちあり)が書いた小説として作品を出した方が売れてしまうのは致し方ない事だし、実際にそうなるだろう。
世間は表層的なところばかりを見ていて、そのくせ正直だ。俺も今になって女性名義で活動すれば良かったとちょっとだけ後悔している(笑)。
あんまりネタバレになるのもアレなので程々にしておくが、世間を巻き込んだ美少女作家Qのセンセーションは、思わぬ形で続いていく事になる。ちありがその後どうなったのか。それを想像するのも読者の楽しみだろう。
さて、何度でも言うが本作は間違いなく傑作だ。既に語り草レベルにまで個人作家の支持を得ている。まるで作中のQが起こしたセンセーションをなぞるように。
みんなのアイドルであるはずの電書ちゃんまでが公共性を放り出し専用記事を書くなど、異例の現象ばかりが起こっている。
(ただ、気を付けてくれ。彼女に褒められると決まって嫉妬に駆られたあの人から悪口を書かれるから)
別に俺の懐に金が入らなくてもいい。この作品がバカ売れしてくれて、一人でも多くの読者の琴線を動かし、爪痕を残してくれれば、それだけで俺は満足だ。
本作はいい意味でのインディーズ作品を代表するような作品になった。パルプ誌にチャンドラーがいたように、彼の功績は個人作家によって語り継がれる事になるだろう。
最後に、本作への色んな感想を覗いていたら、個人作家のくみた柑氏が素敵なイラストを描いていた。
(コピーは著作権的にまずそうなので彼女のツイッターを確認してくれ)
それで第一稿を読んだ時、ヘリベ氏に「こんな表紙どう?」みたいな提案を思い出した。

かなりやっつけだが、上の絵を俺はイメージしていた。
この絵に首から下があって、夏服で、雨でずぶ濡れになっていて、凛とした表情でこちらを睨み、銃を構えている(絵と全然違うじゃないかと言われそうだが、俺だって絵描きじゃないんだからそれぐらいは大目に見てくれ)表紙にしたらKDPホイホイになったんじゃないかと思っている。エロ同人誌で有名な濡れ透けなんちゃらをもう少しクールにした感じの。
作品の質は間違いないからヘリベ氏の作品で有名になりたいイラストレーターがいたら絵師として立候補してみるのもいいだろう。ただ、この思いつきはまだ本人にすらしていないから後で怒られるかもしれないけど(笑)。
とにかく、傑作だ。四の五の言わずに読め。
お前が個人出版というものを愛しているなら、この作品は間違いなく作家の魂に響くだろう。
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