市川イチ氏「肖像」書評
- 2016/01/17
- 20:56
またすごい人が出てきましたねえ。
一部でも話題になっていた気がしますが、市川イチ氏の「肖像」を読みました。
物語のあらすじをざっとご紹介すると、舞台は(明記はしていないですが)中世ヨーロッパ。主人公の孤児ルチアーナは貧しい生活を送っています。糊口をしのぐためにローティーンズで処女を失う友人も多い中、彼女はとある画家に拾われて、その屋敷で成長していきます。
ルチアーノを拾ったアラフォー絵師クァッジロ・アリゴーニは優しくてイケメン(多分スキッド・ロウのセバスチャン・バックあたりに似ている)。弟子を五人ほど抱えています。そんな仲間や女中達と触れ合いながら、ルチアーノはアリゴーニに対する恋心を募らせていき……と、こんな感じのお話です。
本作を読んでいてパっと浮かんだのはゲーテの「若きウェルテルの悩み」ですかね。ストーリーは全然違うのですが、この作品がウェルテルと同時代にあったらそれなりにセンセーションを巻き起こしていたのではないか。そう思いました。
文体は前述の通りゲーテをはじめとした古典文学を少し現代風にした感じで、ストーリーも王道のもので、悪く言うとテンプレみたいな部分があります。ですが、この作品のすごいところは、テンプレと揶揄される可能性を孕んでいながら、一度読ませたら最後まで一気に読ませてしまう筆力にあるのだと思います。
驚く展開なんか無いですよ。真新しい感じも無いですよ。
でもね、読み出したら止まらない上に、感情を揺り動かされるのです。これは本当にすごい。特に最後付近に読者へと投げかけられる切なさはすさまじいものがありますね。この切なさを与えるという点でウェルテル的な魔力を持つ作品だと思いました。ゲーテがきまぐれでパルプフィクションに顔を出したらこんな作品を書くのだろうか。そんな事を思いましたね。
一個だけ好みを申し上げるなら、エピローグにあたる箇所はいっそ書かない方が読者の妄想が広がって面白かったのではないかと感じています(多分牛野小雪氏もそうするでしょう)。
本作は古典寄りの作品という事もあり「売れるか?」と訊かれると「売れないんじゃないですか」と答えますが、個人作家の海は広いな、と。長さも短編と中編ぐらいのちょうどいい具合で、電車読書が中心の方には肩肘張らずに手を出せる良作だと思います。
まあ騙されたと思って読んでみて下さい。確実にハマりますから。
ちなみにセバスチャン・バックはこんな人(ヴォーカル
一部でも話題になっていた気がしますが、市川イチ氏の「肖像」を読みました。
物語のあらすじをざっとご紹介すると、舞台は(明記はしていないですが)中世ヨーロッパ。主人公の孤児ルチアーナは貧しい生活を送っています。糊口をしのぐためにローティーンズで処女を失う友人も多い中、彼女はとある画家に拾われて、その屋敷で成長していきます。
ルチアーノを拾ったアラフォー絵師クァッジロ・アリゴーニは優しくてイケメン(多分スキッド・ロウのセバスチャン・バックあたりに似ている)。弟子を五人ほど抱えています。そんな仲間や女中達と触れ合いながら、ルチアーノはアリゴーニに対する恋心を募らせていき……と、こんな感じのお話です。
本作を読んでいてパっと浮かんだのはゲーテの「若きウェルテルの悩み」ですかね。ストーリーは全然違うのですが、この作品がウェルテルと同時代にあったらそれなりにセンセーションを巻き起こしていたのではないか。そう思いました。
文体は前述の通りゲーテをはじめとした古典文学を少し現代風にした感じで、ストーリーも王道のもので、悪く言うとテンプレみたいな部分があります。ですが、この作品のすごいところは、テンプレと揶揄される可能性を孕んでいながら、一度読ませたら最後まで一気に読ませてしまう筆力にあるのだと思います。
驚く展開なんか無いですよ。真新しい感じも無いですよ。
でもね、読み出したら止まらない上に、感情を揺り動かされるのです。これは本当にすごい。特に最後付近に読者へと投げかけられる切なさはすさまじいものがありますね。この切なさを与えるという点でウェルテル的な魔力を持つ作品だと思いました。ゲーテがきまぐれでパルプフィクションに顔を出したらこんな作品を書くのだろうか。そんな事を思いましたね。
一個だけ好みを申し上げるなら、エピローグにあたる箇所はいっそ書かない方が読者の妄想が広がって面白かったのではないかと感じています(多分牛野小雪氏もそうするでしょう)。
本作は古典寄りの作品という事もあり「売れるか?」と訊かれると「売れないんじゃないですか」と答えますが、個人作家の海は広いな、と。長さも短編と中編ぐらいのちょうどいい具合で、電車読書が中心の方には肩肘張らずに手を出せる良作だと思います。
まあ騙されたと思って読んでみて下さい。確実にハマりますから。
ちなみにセバスチャン・バックはこんな人(ヴォーカル
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