懲りずにリーダビリティーの話
- 2016/01/09
- 00:23
前回の記事で書き忘れたのですが、牛野小雪氏の身内ネタ短編を読んで、ちょっと嫉妬してしまいました(笑)。あれは私が書かないといけなかった。
さて、ようやくあのクソ長い「白鯨」も読み終わり(偉大な作品とはいえ、現代の小説においてルール違反とされる要素が散見されるのはある意味興味深かったです)、ようやく気になっていた電子書籍「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」を読み終わり、そして現在は「果てしない渇き」で気に入った深町秋生の作品を読んでいます。
深町秋生は商業出版で有名なんでさておき、個人作家波野發作氏の書いた「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」について触れてみます。
すげえざっくりと作品を説明すると、ある日雇い主にフケられた書店のバイトが古書店の爺さんを助けたのをきっかけに、春画本という文化に触れながら貸本屋家業をやっていく話ですね。うん、すげえ乱暴な紹介ですが、本当にこういう話です。
これね、最初は藤崎ほつま氏が絶賛しているのを見て「彼にそこまで言わせる作品とはいかに?」という動機で買ったんですね。そういう意味では影響力(実力)のある人に褒めてもらえるというのは結構な宣伝になるのかもしれません。
で、これが読んでみたらすげえ面白いわけですよ。江戸と現代を行き来しながら江戸時代のわなび同士の争いみたいなのが今とリンクしていたり(笑)、春画という世界と夜の蝶である恋川さんをしれーっとオーバーラップさせたりとかね、とにかく見えないところのテクニックがすごいのです。加えて(「山彦」もそうでしたが)膨大な知識をドヤ顔感なくスルスルと読者に吸収させてくれて、まさに読み出したら止まらない娯楽作品でした。まだ本作は完結していないそうで、商品説明によると全四巻の予定らしいです。
こりゃあ、エタったら家を突き止めて「早く続きを書いて下さい」とお願いするしかないですね。
(↑やめなさい)
で、話は相当遠まわしになったのですが、というかさっき脇に置いておいた深町秋生の作品もそうなのですが、やっぱり一気に読ませる力ってすごく大事だな、と。
あのね、膨大な調査そのものは誰にでも出来るんですよ。でもね、それを聴いている人が眠らないように面白おかしく話せる能力って誰もが持っているわけじゃない。一気読みさせる文章っていうのは文章が正しいとか間違っているとかいうみみっちい問題じゃなくて、地の文が面白いのですね。トークが面白い芸人は普通に喋ってれば面白いから強いというのと同じですよ。
私が特に作品を意識する事は「カッコいい表現が出来るか」よりも「読者が読みやすいか」とか「コミュニケーションとして伝わるか」という点なんですね。現代の純文学とは真逆の考えかもしれませんけど(笑)。
結局崇高な意志も読者に伝わらないと意味が無いわけですよ。どれだけ前衛的な事をやっていても観客が「つまんねえ」って言ったらそれまでです。自分で言ってて怖いですが。
そうなるとね、あんまり重厚な文章を書いて読者に身構えさせるよりは、読みやすくて楽しめる文章――過去隙間社さんの作品を「少し頑張ったらヤレそうな飲み屋の姉ちゃん」と喩えたように――を書いていった方が受け入れられるのかな、なんて思うのです。
重厚な文章も好きなんですけど、正直「ちゃんと読まなきゃ」って身構えるでしょ?
一般読者がそういう事をやるかって言われると微妙ですよね。ドストエフスキーをイージーリスニング感覚で読む人なんてほとんどいないでしょ?
それだったらねえ、「コイツはちょっと頑張ればヤレそうだな」という軽薄さを読者に惹起させた方がいいわけです。喩えは酷いですが(笑)。
こういう作品の読みやすさっていうのは、傍から見えにくいから書き手の人は軽んじやすい能力なんですけど、やろうとしている事はすごい面白いのに地の文がつまらないがためにギブアップ、なんていう作品も正直ありました。なるべく最後まで作品を読む指針を取っている私ですらそうなのです。そうなるとリーダビリティーって本当に大事な要素だなって思うわけですよ。
それを強化していくには、やはり一気読みさせるような作家の作品において何がなされているのかを注視しながら読み進めていく事が肝要ですね。
「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」はあえて俗っぽく書いているというか、そういう部分に関するセンスが鋭い作者さんなのでしょう。細かいところで本当によく考えているな、という印象を受けました。
さあ、作者の波野發作氏に次回作のプレッシャーをかけるため(笑)、皆さんでこの作品を読みましょう。
追記
「悪人の系譜」99円セールは1月15日ぐらいを目処に終わりにしようかと思っています。そこを過ぎたら250円になりますので、興味のある方はどうぞ。
さて、ようやくあのクソ長い「白鯨」も読み終わり(偉大な作品とはいえ、現代の小説においてルール違反とされる要素が散見されるのはある意味興味深かったです)、ようやく気になっていた電子書籍「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」を読み終わり、そして現在は「果てしない渇き」で気に入った深町秋生の作品を読んでいます。
深町秋生は商業出版で有名なんでさておき、個人作家波野發作氏の書いた「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」について触れてみます。
すげえざっくりと作品を説明すると、ある日雇い主にフケられた書店のバイトが古書店の爺さんを助けたのをきっかけに、春画本という文化に触れながら貸本屋家業をやっていく話ですね。うん、すげえ乱暴な紹介ですが、本当にこういう話です。
これね、最初は藤崎ほつま氏が絶賛しているのを見て「彼にそこまで言わせる作品とはいかに?」という動機で買ったんですね。そういう意味では影響力(実力)のある人に褒めてもらえるというのは結構な宣伝になるのかもしれません。
で、これが読んでみたらすげえ面白いわけですよ。江戸と現代を行き来しながら江戸時代のわなび同士の争いみたいなのが今とリンクしていたり(笑)、春画という世界と夜の蝶である恋川さんをしれーっとオーバーラップさせたりとかね、とにかく見えないところのテクニックがすごいのです。加えて(「山彦」もそうでしたが)膨大な知識をドヤ顔感なくスルスルと読者に吸収させてくれて、まさに読み出したら止まらない娯楽作品でした。まだ本作は完結していないそうで、商品説明によると全四巻の予定らしいです。
こりゃあ、エタったら家を突き止めて「早く続きを書いて下さい」とお願いするしかないですね。
(↑やめなさい)
で、話は相当遠まわしになったのですが、というかさっき脇に置いておいた深町秋生の作品もそうなのですが、やっぱり一気に読ませる力ってすごく大事だな、と。
あのね、膨大な調査そのものは誰にでも出来るんですよ。でもね、それを聴いている人が眠らないように面白おかしく話せる能力って誰もが持っているわけじゃない。一気読みさせる文章っていうのは文章が正しいとか間違っているとかいうみみっちい問題じゃなくて、地の文が面白いのですね。トークが面白い芸人は普通に喋ってれば面白いから強いというのと同じですよ。
私が特に作品を意識する事は「カッコいい表現が出来るか」よりも「読者が読みやすいか」とか「コミュニケーションとして伝わるか」という点なんですね。現代の純文学とは真逆の考えかもしれませんけど(笑)。
結局崇高な意志も読者に伝わらないと意味が無いわけですよ。どれだけ前衛的な事をやっていても観客が「つまんねえ」って言ったらそれまでです。自分で言ってて怖いですが。
そうなるとね、あんまり重厚な文章を書いて読者に身構えさせるよりは、読みやすくて楽しめる文章――過去隙間社さんの作品を「少し頑張ったらヤレそうな飲み屋の姉ちゃん」と喩えたように――を書いていった方が受け入れられるのかな、なんて思うのです。
重厚な文章も好きなんですけど、正直「ちゃんと読まなきゃ」って身構えるでしょ?
一般読者がそういう事をやるかって言われると微妙ですよね。ドストエフスキーをイージーリスニング感覚で読む人なんてほとんどいないでしょ?
それだったらねえ、「コイツはちょっと頑張ればヤレそうだな」という軽薄さを読者に惹起させた方がいいわけです。喩えは酷いですが(笑)。
こういう作品の読みやすさっていうのは、傍から見えにくいから書き手の人は軽んじやすい能力なんですけど、やろうとしている事はすごい面白いのに地の文がつまらないがためにギブアップ、なんていう作品も正直ありました。なるべく最後まで作品を読む指針を取っている私ですらそうなのです。そうなるとリーダビリティーって本当に大事な要素だなって思うわけですよ。
それを強化していくには、やはり一気読みさせるような作家の作品において何がなされているのかを注視しながら読み進めていく事が肝要ですね。
「ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ」はあえて俗っぽく書いているというか、そういう部分に関するセンスが鋭い作者さんなのでしょう。細かいところで本当によく考えているな、という印象を受けました。
さあ、作者の波野發作氏に次回作のプレッシャーをかけるため(笑)、皆さんでこの作品を読みましょう。
追記
「悪人の系譜」99円セールは1月15日ぐらいを目処に終わりにしようかと思っています。そこを過ぎたら250円になりますので、興味のある方はどうぞ。
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