「山彦」書評(すごい人出てきた…)
- 2015/11/26
- 22:53
モノが違う……。
本著を読了した時の素直な感想です。
いやはや、かねてから「山彦」の評判は聞いてはいましたが、「これはとんでもない人が出てきたな」と興奮しています。
「山彦」はいわゆるサンカ小説と言われるものなのですが、サンカと言われてもピンと来ない人がほとんどでしょう。なのでまずはサンカの説明から入ります。
サンカをものすごくざっくり説明するのであれば、新潟の山々をジプシーのように巡りながら巡礼の旅を続ける民族ですね。この説明だと本当にざっくりなんですけど。
まあ大丈夫です。本作では懇切丁寧にサンカの説明が書かれていますから、予備知識は必要ございません。
ネタバレ防止のため、ストーリーの説明が非常に難しいのですが、本作は新聞記者の須見、三条市の市議会議員である高橋、山彦の民である盲目の少女フミ、山岳系フリーライターのユキホなど、多数の人物の視点から物語が紡がれていきます。
各ストーリーは一見バラバラでして、たとえば政治の世界にチラつくヤツカハギ(=サンカ)の影であったり、謎の連続殺人事件だったり、山彦に混じって漂泊の旅を続ける話などが出てきます。
それがストーリーを追うごとに一つの線へと集約されていき……と、そんなお話です。
いや、申し訳ない。本当はもっと詳しく説明したいのですが、ネタバレ防止のためには致し方ないと判断しました。
上記の概要だとストーリーの輪郭が見えにくいかもしれませんが、とにかくすごい。サンカに関する膨大な調査が垣間見えるし、政治の世界にもリアリティーがあるし、所々には目を見張るような伏線の回収があります。たとえば時間に関する叙述トリックのような箇所があるのですが、ここの伏線が回収された時は鳥肌が立ちましたね。
先日の記事で「本作の上巻はすでにプロの筆力に達している」と述べましたが、最後まで読んでみて、「これはとんでもない人が出てきたな」という印象です。ヘリベ氏が大絶賛していたのもよく分かります。
「山彦」はどちらかというと海外の作家が好むようなスタイルですかね。複数の視点から一つのゴールに向かって壮大な物語が展開されていくというところが。
でも、このスタイルってみんながやりたくてもやれないスタイルなんですね。よっぽど綿密にプロットを練ったのだろうと思います。資料集を売り出したらそれも売れるかも(笑)。
あとがきによれば、本著は全体の長さやサンカという題材が公募では難しいだろうという事でKDPというフィールドを選んだらしいのですが、これってメフィスト賞あたりに送っていたら普通に受賞していたのではないかと思います。というのも私が知っている地方の知的好奇心をくすぐるタイプの某受賞作を明らかに超えていたからです。もちろん踏み台となった作品のタイトルは出せません(笑)。
この小説はおそらく普通の長編小説2~3個分ぐらいの分量だと思うのですが、これぐらいの長さになるとどこかしらダレるものなんですよ。ですが、この作品はインディーズ作家の、つまりはネームバリューの無い状態であの分量を一気読みさせるという凄まじい才能を証明してしまいました。はっきり言ってこの作品は商業作家の上位群に混ぜても見劣りしないクオリティーであると思いますし、よくこんなすごい作家が埋もれていたなと、ただただ驚愕しています。
本当にね、全部すごいんですよ。人物の外見描写がほとんどないのに生々しい人間が描かれていたり(つまり仕草や喋りだけで人格が浮き出ているという事ですよ)、リアルな政治の世界が描かれていたり、オカルトに分類される造詣まで深かったりと、ありとあらゆる要素の深みが尋常じゃないんですね。
これねえ、英語表記で海外に出して、ちゃんとマーケティングすればバカ売れしますよ。おそらく私達日本人がインカの遺跡に向ける視線と同じような目で本作は見られるでしょう。サンカという地方独特の民族が魅力的に映る小説だし、新潟の地方色はこれからもどんどん出していった方がいいでしょう(牛野小雪氏が徳島を前面に出したように)。
「山彦」の作者さんは記者の方だとどこかで聞いた事があるのですが、政治の世界をリアルに描くのは仕事から得たものがかなり大きいのではないでしょうか? そう考えると常に取材している記者系の人は作家に向いているのかもしれません。小説を書くヒマなんか無いぐらい死ぬほど忙しい人が多いのもまた事実ではありますけど。
本作はすべて無料キャンペーンで読ませていただきましたが、もし本作が書籍化したら(十分すぎるぐらい可能性はあります)普通に買うでしょうね。
とにかくすごい作品でした。
積ん読状態で「山彦」を放置している方々は早く読んだ方がいいですよ。あなたは明らかに損していますから。
本著を読了した時の素直な感想です。
いやはや、かねてから「山彦」の評判は聞いてはいましたが、「これはとんでもない人が出てきたな」と興奮しています。
「山彦」はいわゆるサンカ小説と言われるものなのですが、サンカと言われてもピンと来ない人がほとんどでしょう。なのでまずはサンカの説明から入ります。
サンカをものすごくざっくり説明するのであれば、新潟の山々をジプシーのように巡りながら巡礼の旅を続ける民族ですね。この説明だと本当にざっくりなんですけど。
まあ大丈夫です。本作では懇切丁寧にサンカの説明が書かれていますから、予備知識は必要ございません。
ネタバレ防止のため、ストーリーの説明が非常に難しいのですが、本作は新聞記者の須見、三条市の市議会議員である高橋、山彦の民である盲目の少女フミ、山岳系フリーライターのユキホなど、多数の人物の視点から物語が紡がれていきます。
各ストーリーは一見バラバラでして、たとえば政治の世界にチラつくヤツカハギ(=サンカ)の影であったり、謎の連続殺人事件だったり、山彦に混じって漂泊の旅を続ける話などが出てきます。
それがストーリーを追うごとに一つの線へと集約されていき……と、そんなお話です。
いや、申し訳ない。本当はもっと詳しく説明したいのですが、ネタバレ防止のためには致し方ないと判断しました。
上記の概要だとストーリーの輪郭が見えにくいかもしれませんが、とにかくすごい。サンカに関する膨大な調査が垣間見えるし、政治の世界にもリアリティーがあるし、所々には目を見張るような伏線の回収があります。たとえば時間に関する叙述トリックのような箇所があるのですが、ここの伏線が回収された時は鳥肌が立ちましたね。
先日の記事で「本作の上巻はすでにプロの筆力に達している」と述べましたが、最後まで読んでみて、「これはとんでもない人が出てきたな」という印象です。ヘリベ氏が大絶賛していたのもよく分かります。
「山彦」はどちらかというと海外の作家が好むようなスタイルですかね。複数の視点から一つのゴールに向かって壮大な物語が展開されていくというところが。
でも、このスタイルってみんながやりたくてもやれないスタイルなんですね。よっぽど綿密にプロットを練ったのだろうと思います。資料集を売り出したらそれも売れるかも(笑)。
あとがきによれば、本著は全体の長さやサンカという題材が公募では難しいだろうという事でKDPというフィールドを選んだらしいのですが、これってメフィスト賞あたりに送っていたら普通に受賞していたのではないかと思います。というのも私が知っている地方の知的好奇心をくすぐるタイプの某受賞作を明らかに超えていたからです。もちろん踏み台となった作品のタイトルは出せません(笑)。
この小説はおそらく普通の長編小説2~3個分ぐらいの分量だと思うのですが、これぐらいの長さになるとどこかしらダレるものなんですよ。ですが、この作品はインディーズ作家の、つまりはネームバリューの無い状態であの分量を一気読みさせるという凄まじい才能を証明してしまいました。はっきり言ってこの作品は商業作家の上位群に混ぜても見劣りしないクオリティーであると思いますし、よくこんなすごい作家が埋もれていたなと、ただただ驚愕しています。
本当にね、全部すごいんですよ。人物の外見描写がほとんどないのに生々しい人間が描かれていたり(つまり仕草や喋りだけで人格が浮き出ているという事ですよ)、リアルな政治の世界が描かれていたり、オカルトに分類される造詣まで深かったりと、ありとあらゆる要素の深みが尋常じゃないんですね。
これねえ、英語表記で海外に出して、ちゃんとマーケティングすればバカ売れしますよ。おそらく私達日本人がインカの遺跡に向ける視線と同じような目で本作は見られるでしょう。サンカという地方独特の民族が魅力的に映る小説だし、新潟の地方色はこれからもどんどん出していった方がいいでしょう(牛野小雪氏が徳島を前面に出したように)。
「山彦」の作者さんは記者の方だとどこかで聞いた事があるのですが、政治の世界をリアルに描くのは仕事から得たものがかなり大きいのではないでしょうか? そう考えると常に取材している記者系の人は作家に向いているのかもしれません。小説を書くヒマなんか無いぐらい死ぬほど忙しい人が多いのもまた事実ではありますけど。
本作はすべて無料キャンペーンで読ませていただきましたが、もし本作が書籍化したら(十分すぎるぐらい可能性はあります)普通に買うでしょうね。
とにかくすごい作品でした。
積ん読状態で「山彦」を放置している方々は早く読んだ方がいいですよ。あなたは明らかに損していますから。
スポンサーサイト