試しに危ない連載をやってみる その３

注：下記は新しくリリース予定である極悪エッセイの一部です。
内容はキツめですので、スルースキルの無い方やマジレスしか出来ないバカ……いや、純粋な方はご遠慮下さい。

安易な中二病判定に噛みつく

　ネットで広く浸透した概念で中二病と呼ばれるものがある。これをあえて一言で表現するなら「背伸びしがちな言動」の事を言うのだが、その汎用性と定義の曖昧さが混ざり合って、しばしば不愉快な出来事も起こる。
　たとえばあまり器量の良くない人がうっかりツイッターあたりで詩的な文章を書くと、大体の場合は中二病と評されてしまう。まあ、美男美女でも同じ事をしたら中二病と言われる事はたしかにあるのだが、ブサイクが「ああ、あの薔薇の丘に～」（←例としてもこれは酷い）とか言うと中二病判定を喰らう可能性は異常に高くなる。
　容赦なき中二病判定には聖域が無い。著名人でもまさかの太宰治が「人間失格」を「自意識をこじらせた中二病」と評されてしまう事があるわけで、時々三島由紀夫の「仮面の告白」もその乱暴なレッテル付けのターゲットになる。
　だが待て。太宰や三島が中二病であるならお前らは一体何なのだ？
　俺が最高にいけ好かないと思うのは、そうやって蚊帳の外から好き勝手言っては偉人すら自分の下に置きたがる人間の卑しさである。本当に貴様は何様のつもりなんだと思うし、その何でもかんでも下に置きたがるマウンティング思考そのものが中二病ではないのか？　さっきから自分で投げたブーメランが頭に刺さっているのには少しも気付いていないんですか？
　いまだに定義が曖昧ではあるものの、ウィキペディアに載っている中二病の定義を使うのであれば――情報源としてはどうかと思うが、広辞苑に載ってるのもどうかと思うのでそこは仕方がないか――中二病は身にそぐわない背伸びした思考になるわけだ。じゃあ訊くが、その背伸びしているかどうかの判定は誰がしているのかという話になる。
　答えはいたって簡単だ。その都度その人の振る舞いを観察している人間の主観に他ならない。そうなるとどうなるか？
　つまりだが、何でもかんでも中二病と判定されてしまう最近の傾向には、その実自分が一番優れていると思っている人間の思考が背景としてあるのではないかという事だ。この理論を適用すれば全てに整合性がもたらされる。
　よく自分の観察眼を鼻にかけたようないけ好かないツイートが流れ、頭の悪い仲間から敬意とともに拡散されていたりするが、その発言をしている人間は実際の生活ではどれだけ有能なんだろう？
　相撲では「顔じゃない」という表現がある。その意味は「お前が言えたもんじゃねえだろ」という意味だ。たとえば幕下力士が横綱の試合にあれこれ上から目線で言ってたらそれは間違いなく「顔じゃない」という状態だろう。多分そんな事を堂々とやっていれば先輩力士からボコボコにされるはずだ。
　思うに、仮想空間で偉そうな事を言ってる人間というのは――特に特定の相手を指して鋭い観察眼を発揮している人間は――実際のところ、リアルの世界で自分の思いを表現出来ない人が多いのではないかと思う。
　これは多分にブーメランの可能性を含んだ上で言うが、そういう発言を見ると「そう思ってるんだったらお前が何とかしろよ」と思うわけである。おそらく居酒屋で言う悪口の類なのだろうけど、それを言う相手がいないから匿名で世界中に自分の“鋭い”意見を発信して、一人でも多くの賛同を集めたいという下心はあるまいか？　そういう人間を俺は少しもカッコいいとは思わないのだが。
　俺が大嫌いな女で「人間観察が趣味です」とか抜かすタイプがいる。このタイプの女は誰を評する時も自分より下に置いて語りたがる傾向がある。そういうタイプは冷静な観察者である事を自負していて、自分の実力を披瀝したいがために、ありとあらゆる人間を自分のダシに使う傾向がある。だから彼女の周囲にいる人間はいつも体調を崩し気味だ。
　こいつらもやはり非常にいけ好かない。
　思うに、社会全体がインチキ心理学者になっている傾向があるのだ。
　君はモテそうにないね。
　君は直情的な傾向がある。
　君は自分をコントロール出来ていない。
　君は自分をよく見つめるべきだ。
　君はもっと謙虚になるべきだ。
　……やかましいわクソボケ。
　これらは全て味方を装い、その実自分の都合のいいように他者をコントロールする卑劣な手段である。
　大体だ、どこから見てもモテそうにない奴に「君はモテそうにないね」なんて言われる瞬間以上に殺意を抱く瞬間があるだろうか？
　もはや冒頭の中二病という概念は見る影もなくなっているが、全ては他者に対するレッテル付けである。そしてレッテル付けをする側は常に安全圏にいて、自分のブサイクさは少しも治そうとしないのだ。ブサイクな上に傲慢なのだからそいつはあなたより一層タチが悪い。
　つまりだ。仮想空間では中二病判定を頻繁に喰らうものだが、それは実のところマウンティングである事がままあるのだ。
　仮にあなたが中二病判定をされたり中学生に喩えられたりしたらこう言い返してやればいい。
　やれやれ、中二病なんていう使い古された陳腐な表現をまだ使っている奴がいるなんて。