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- 2015/09/30
- 23:19
「そろそろ男のフリをするのも飽きたな」って思いだした頃に、上に乗ってる奴の速さしか取り得の無い蠕動が終わる。ゼエゼエハアハアいっててそれなりに僕頑張ってました感を出してるんだけど、ゴメン、君が必死こいてる時、ぜんぜん違うことを考えていた。
合体していた最中から物思いに耽り続けているわたしは、疲労で半目になってる彼の下からスルスルと出ていくと、バッグの中から取り出したセブンスターを咥えて火を点ける。
うん、うまい。すくなくとも、横で寝ている男のおチ○ポよりは。
しかし、なんだろう。目下隣で果てている男はどっちかと言うとブサイクの部類に入るのに、昨夜のライブで出会った瞬間だけはイケメンに見えるんだからタチが悪い。好きな音楽に包まれていると、大して価値のないものにまでフォトショ効果がかかるかのかもしれない。同じことをこいつが考えてたら殺すけど。
あっ……と気付いたわたしは、自分の中に残っていた遺伝子入りコンドームを引っ張り出す。我ながら忘れ物としてはひどい部類だと思う。いやきっと、酒がまだ残ってるんだろう。しこたま呑んだせいで視界とか意識とか貞操観念とか、その他もろもろまでがボヤっとしていて気持ちいい→からの目下自己嫌悪の地獄に片足を入れている最中だ。なんでまたくだらないあやまちを繰り返してしまうのだろう?
ようやく回復した男が新品のコンドームを一つ持ってきた。彼なりの儀式みたいで、歴代ヤった女のキスの祝福を受けた性なるコンドームを持ち歩くんだそうだ。サムい試みを熱く語る彼は「俺の幸せを願ってこのゴムにキスをしてくれ」なんて言う。
これからのますますのご清祥を願って、わたしは「死ね」って思いながらコンドームの袋に口付けする。「前の女からもらった祝福はいささか量が足りなかったから、金銭トラブルやら事故に遭うやら散々な目にあった」なんて自虐的に笑いながら言ってたけど、わたしから言わせれば連綿と続いているのは祝福じゃなくて、単に怨嗟が連鎖になって色んな女に受け継がれているだけなんだと思う。まあいいや。どうせこいつとはもう会わないし。
無意味に将来が心配になって、悪あがきで本を読み出した。
つい最近はガラにもなくチャンドラーの「さよなら、愛しい人」を呼んでマーロウの渋さに萌えたり、インディーズの作品では「文中の( )にあてはまる文字を入れなさい」っていう不思議な本を読んで先鋭的な表現に独り興奮したりした。で、その本を読んでから、わたしの心が変な揺れ方をしている気がする。
文中っていうか、人はどこかしら自分の中にある( )を埋めようとしているんだと思う。わたしはとりあえずチ○ポを挿れてその隙間を埋めようとしたのだけど、どうにも有機的な物体ではその( )は満たせないらしい。
次はバカみたいにスパスパとタバコを吸ってみたけど、有毒ガスで埋まったのは( )じゃなくてわたしの心でもなくてもうちょっと横にある肺だった。惜しい。
チ○ポもダメで、タバコもダメで、もしかしたら、この( )は何かで埋めるのではなくて、何かを生み出すことによってスッキリと無くなるんじゃないかと思ったわたしは、子作りをするでもなく、何を血迷ったのか創作を始める。
中途半端に読書をしているせいか、思っていたよりもポンポポンと言葉が出てきて、「わたし実は超天才なんじゃないの?」と思いつつも、それを言ったらまた周囲からバカにされるんだろうと思って黙って秘密の趣味にする。とりあえずは書いて、書いて、書いて、たまにアタマが痛くなりつつも書いた。
出来上がった作品は想像以上の出来で、まあたしかに素人目にも荒削りなんだけど、なんか自信がついちゃったわたしは文学賞に投稿してみる。で、速攻落ちる。厳しい。
また書く。また天才だと自認する。そしてあっけなく一次で落ちる。悲しい。
このままだと精神的にダメになりそうだなと思ったわたしは、自己出版という道を辿る。ネットで自作の電子書籍として売るってやつ。
とりあえず見た目は大事でしょ。ということで、ツイッターのアイコンに橋本環奈の写真をイジってちょっとだけ本家よりブサイクにした逆フォトショ効果を狙った写真を使う。→オッサンがすごい勢いで釣れる。で、わたしはやっぱり天使なんだと確信する。
でも肝心の作品はリアクションが薄くて、面白くないわたしはさっさと別アカウントを作って転生する。今度は男の設定でいこう。なんでって訊かれると、その方が自著の売れた時に自分の腕を誇れる気がした。
落ち着いたわたしは、自分の( )を埋めるべく書いて書いてまた書く。狂ったように書いて、それでも( )は満たされなくて、どうにもならない時はあのバカを深夜二時に電話で呼び出す。それでアタマの代わりに腰をすごい勢いで動かす。
でも、だいたい後悔する。いつも「アレ?こいつこんなにヘタだったっけ?」という心境で憂さ晴らしを終わるわたしは、いくらかの自己嫌悪を感じつつも、力尽きた彼の体重を最近垂れてきた胸で支えて、その平べったくなった胸板の内側で次回作の構想を考える。見てくれはだんだん貧弱になってきたけど、中身は豊かになったしいつまでも飢えている。(注:願望込み)
ああ、でもわたしの( )はいつになったら埋まるのだろう?
いや、人は誰でもいつまでも埋まらない( )をそれぞれの胸に抱いているのかもしれない、なんて。そんなポエティックなことを言えるようになった今では、素敵なファンレターを送るはずだったバンドも解散して、憧れだったヴォーカルは普通に結婚してて、今や冴えないオッサンになりかけている。( )は心だけじゃなくて、知らぬ間にわたしの時ですら食い尽くしてしまったようだ。
でもまあいいや。わたしには執筆があるしチャンドラーの未読本だってあるしこの先に歩んでいく人生がある。そこは相変わらず( )だらけで、もはや自分が何者なのかすらさっぱりわからなくなってきたのだけど、きっと人生とは自分の( )を埋めていく作業なんだろうと思う。そこには夢が詰まってたり、けっこうな割合でクソが詰まってる感が否めないけれど、クソまみれになった中で砂金がキラリと光ってるのもごくまれに素敵に見えたりするんじゃない?なんて思う。
ああ隙間隙間。わたしのスキマ。ヘイシャヘイシャ。ロージア。
わたしは何者でもない、名無し名無し名無しの( )。
わたしの名前、どうしよう?
いや、名前なんてなんでもいいか。とりあえずわたしの上で果てている男の名前を名乗っておこう。で、時期を見てまた転生。またわたしは( )を埋める作業に没頭する。
そう、今日からわたしは月狂四郎。
アタマのおかしい名も無きボクサー。
いつまでこの名前で活動するのかはわからない。
だけど、わたしの( )が埋まるまで、わたしはみんなの( )を埋めていくことにしよう。
「うう~ん」と本家月狂四郎が情けない寝言を漏らしている。わたしの身体に容赦なく押し付けられる彼の重みと、この男にこれから降りかかる災難を思うと、少しだけ笑えてきた。
少しだけ、わたしの( )が埋まった。
合体していた最中から物思いに耽り続けているわたしは、疲労で半目になってる彼の下からスルスルと出ていくと、バッグの中から取り出したセブンスターを咥えて火を点ける。
うん、うまい。すくなくとも、横で寝ている男のおチ○ポよりは。
しかし、なんだろう。目下隣で果てている男はどっちかと言うとブサイクの部類に入るのに、昨夜のライブで出会った瞬間だけはイケメンに見えるんだからタチが悪い。好きな音楽に包まれていると、大して価値のないものにまでフォトショ効果がかかるかのかもしれない。同じことをこいつが考えてたら殺すけど。
あっ……と気付いたわたしは、自分の中に残っていた遺伝子入りコンドームを引っ張り出す。我ながら忘れ物としてはひどい部類だと思う。いやきっと、酒がまだ残ってるんだろう。しこたま呑んだせいで視界とか意識とか貞操観念とか、その他もろもろまでがボヤっとしていて気持ちいい→からの目下自己嫌悪の地獄に片足を入れている最中だ。なんでまたくだらないあやまちを繰り返してしまうのだろう?
ようやく回復した男が新品のコンドームを一つ持ってきた。彼なりの儀式みたいで、歴代ヤった女のキスの祝福を受けた性なるコンドームを持ち歩くんだそうだ。サムい試みを熱く語る彼は「俺の幸せを願ってこのゴムにキスをしてくれ」なんて言う。
これからのますますのご清祥を願って、わたしは「死ね」って思いながらコンドームの袋に口付けする。「前の女からもらった祝福はいささか量が足りなかったから、金銭トラブルやら事故に遭うやら散々な目にあった」なんて自虐的に笑いながら言ってたけど、わたしから言わせれば連綿と続いているのは祝福じゃなくて、単に怨嗟が連鎖になって色んな女に受け継がれているだけなんだと思う。まあいいや。どうせこいつとはもう会わないし。
無意味に将来が心配になって、悪あがきで本を読み出した。
つい最近はガラにもなくチャンドラーの「さよなら、愛しい人」を呼んでマーロウの渋さに萌えたり、インディーズの作品では「文中の( )にあてはまる文字を入れなさい」っていう不思議な本を読んで先鋭的な表現に独り興奮したりした。で、その本を読んでから、わたしの心が変な揺れ方をしている気がする。
文中っていうか、人はどこかしら自分の中にある( )を埋めようとしているんだと思う。わたしはとりあえずチ○ポを挿れてその隙間を埋めようとしたのだけど、どうにも有機的な物体ではその( )は満たせないらしい。
次はバカみたいにスパスパとタバコを吸ってみたけど、有毒ガスで埋まったのは( )じゃなくてわたしの心でもなくてもうちょっと横にある肺だった。惜しい。
チ○ポもダメで、タバコもダメで、もしかしたら、この( )は何かで埋めるのではなくて、何かを生み出すことによってスッキリと無くなるんじゃないかと思ったわたしは、子作りをするでもなく、何を血迷ったのか創作を始める。
中途半端に読書をしているせいか、思っていたよりもポンポポンと言葉が出てきて、「わたし実は超天才なんじゃないの?」と思いつつも、それを言ったらまた周囲からバカにされるんだろうと思って黙って秘密の趣味にする。とりあえずは書いて、書いて、書いて、たまにアタマが痛くなりつつも書いた。
出来上がった作品は想像以上の出来で、まあたしかに素人目にも荒削りなんだけど、なんか自信がついちゃったわたしは文学賞に投稿してみる。で、速攻落ちる。厳しい。
また書く。また天才だと自認する。そしてあっけなく一次で落ちる。悲しい。
このままだと精神的にダメになりそうだなと思ったわたしは、自己出版という道を辿る。ネットで自作の電子書籍として売るってやつ。
とりあえず見た目は大事でしょ。ということで、ツイッターのアイコンに橋本環奈の写真をイジってちょっとだけ本家よりブサイクにした逆フォトショ効果を狙った写真を使う。→オッサンがすごい勢いで釣れる。で、わたしはやっぱり天使なんだと確信する。
でも肝心の作品はリアクションが薄くて、面白くないわたしはさっさと別アカウントを作って転生する。今度は男の設定でいこう。なんでって訊かれると、その方が自著の売れた時に自分の腕を誇れる気がした。
落ち着いたわたしは、自分の( )を埋めるべく書いて書いてまた書く。狂ったように書いて、それでも( )は満たされなくて、どうにもならない時はあのバカを深夜二時に電話で呼び出す。それでアタマの代わりに腰をすごい勢いで動かす。
でも、だいたい後悔する。いつも「アレ?こいつこんなにヘタだったっけ?」という心境で憂さ晴らしを終わるわたしは、いくらかの自己嫌悪を感じつつも、力尽きた彼の体重を最近垂れてきた胸で支えて、その平べったくなった胸板の内側で次回作の構想を考える。見てくれはだんだん貧弱になってきたけど、中身は豊かになったしいつまでも飢えている。(注:願望込み)
ああ、でもわたしの( )はいつになったら埋まるのだろう?
いや、人は誰でもいつまでも埋まらない( )をそれぞれの胸に抱いているのかもしれない、なんて。そんなポエティックなことを言えるようになった今では、素敵なファンレターを送るはずだったバンドも解散して、憧れだったヴォーカルは普通に結婚してて、今や冴えないオッサンになりかけている。( )は心だけじゃなくて、知らぬ間にわたしの時ですら食い尽くしてしまったようだ。
でもまあいいや。わたしには執筆があるしチャンドラーの未読本だってあるしこの先に歩んでいく人生がある。そこは相変わらず( )だらけで、もはや自分が何者なのかすらさっぱりわからなくなってきたのだけど、きっと人生とは自分の( )を埋めていく作業なんだろうと思う。そこには夢が詰まってたり、けっこうな割合でクソが詰まってる感が否めないけれど、クソまみれになった中で砂金がキラリと光ってるのもごくまれに素敵に見えたりするんじゃない?なんて思う。
ああ隙間隙間。わたしのスキマ。ヘイシャヘイシャ。ロージア。
わたしは何者でもない、名無し名無し名無しの( )。
わたしの名前、どうしよう?
いや、名前なんてなんでもいいか。とりあえずわたしの上で果てている男の名前を名乗っておこう。で、時期を見てまた転生。またわたしは( )を埋める作業に没頭する。
そう、今日からわたしは月狂四郎。
アタマのおかしい名も無きボクサー。
いつまでこの名前で活動するのかはわからない。
だけど、わたしの( )が埋まるまで、わたしはみんなの( )を埋めていくことにしよう。
「うう~ん」と本家月狂四郎が情けない寝言を漏らしている。わたしの身体に容赦なく押し付けられる彼の重みと、この男にこれから降りかかる災難を思うと、少しだけ笑えてきた。
少しだけ、わたしの( )が埋まった。
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