もしかしたらこの手紙は遺書になるかもしれない
- 2015/08/28
- 23:16
俺の事を知るすべての人へ。
ガッド、なんてこった。こんな事になろうとは想像さえしなかった。
今俺は生命の危機に瀕している。この記事は俺の遺書ともなるかもしれない。逃げながら記事を書いているため、とりあえず手短に話す。
昨日に書いた記事がとある火星人の恨みを買っちまったらしい。ジム帰りに電車に乗っていた俺は、沈み行く太陽の向こう側に光輝くものを見た。「ありゃ何だ?」と思っていたら、その刹那、激しい破裂音とともに電車の窓ガラスが割れたんだ。
俺はビックリして尻餅をついた。同乗していた乗客は何が起こったかも分からずパニックだ。
俺のすぐ傍に横たわる人間だったもの……。その顔は、いましがた自分の身に起こった事を理解出来ていないようだった。
まさか、あの光はスナイパーライフルだったのか?
一瞬の間に悪寒が全身を駆け巡り、俺は銃口の光が見えたはずのビルを見上げた。電車が高速で走ってるもんだから風はすごいし、周囲の人間は突如起こった暗殺事件にいまだ狂乱状態だ。いや、俺自身も十分パニックだったのだが、なんとなく窓の外を見ないといけない気がしたのだ。
ビルの上にはモデルみたいなシルエットが見えた。夕闇に照らされたそいつはテンガロンハットのような帽子をかぶっていて、今しがたぶっ放したライフルをダラリとその手にぶら下げている。
だが、俺が驚愕したのはそんな事じゃない。
夕日に照らされる“彼女”は俺を見て明らかに嗤っていた。まるで、「本物の標的はお前だ」とでも言うように。
夕闇に照らされる彼女は艶かしい唇を動かし、間違いなく「次は当てる」と言っていた。
――なんという事だ。俺はとんでもない奴の逆鱗に触れちまったらしいぞ。
言い訳するわけじゃないが、昨日の記事はちょっとした軽口だった。彼女なら冗談だと理解してくれると分かっていた。だからあれだけ攻めた内容になるのだ。
誰かさんが「そんな事言ってたら撃ち殺される」なんて冗談を言いやがったもんだから、それが言霊になっちまったのか……? いや、すぐ死ぬかもしれない状況下で、わが身に起こる不幸を人のせいにするのはやめよう。それはあまりにも見苦しいというものだ。
だが、このまま死んだとしたらあまりに無念だ。火星人には冗談が通じないのか? まあ、たしかに地球人の冗談が通じないっていう可能性はあっただろう。軽口を言ったら殺されかけるなんて、カルチャーショックにも程があるぞ。もしかしたら向こうは「来世で頑張れ」ぐらいの気持ちでライフルをぶっ放したのかもしれない。
ああ、神よ、こんな時だけ頼りにして悪いが、なんとかこの苦境から俺を救い出してくれ。俺にはまだやらなければいけない事がある。
彼女が皆の視界から少し消えた間に何が起こったのか、読者の誰一人知りやしないだろう。
まだ死ぬわけにはいかない。俺はまだ生き延びないといけない。
ひとまず今日は身を隠す。自分の代わりに撃たれた人を思い、俺は密かに十字を切った。
ガッド、なんてこった。こんな事になろうとは想像さえしなかった。
今俺は生命の危機に瀕している。この記事は俺の遺書ともなるかもしれない。逃げながら記事を書いているため、とりあえず手短に話す。
昨日に書いた記事がとある火星人の恨みを買っちまったらしい。ジム帰りに電車に乗っていた俺は、沈み行く太陽の向こう側に光輝くものを見た。「ありゃ何だ?」と思っていたら、その刹那、激しい破裂音とともに電車の窓ガラスが割れたんだ。
俺はビックリして尻餅をついた。同乗していた乗客は何が起こったかも分からずパニックだ。
俺のすぐ傍に横たわる人間だったもの……。その顔は、いましがた自分の身に起こった事を理解出来ていないようだった。
まさか、あの光はスナイパーライフルだったのか?
一瞬の間に悪寒が全身を駆け巡り、俺は銃口の光が見えたはずのビルを見上げた。電車が高速で走ってるもんだから風はすごいし、周囲の人間は突如起こった暗殺事件にいまだ狂乱状態だ。いや、俺自身も十分パニックだったのだが、なんとなく窓の外を見ないといけない気がしたのだ。
ビルの上にはモデルみたいなシルエットが見えた。夕闇に照らされたそいつはテンガロンハットのような帽子をかぶっていて、今しがたぶっ放したライフルをダラリとその手にぶら下げている。
だが、俺が驚愕したのはそんな事じゃない。
夕日に照らされる“彼女”は俺を見て明らかに嗤っていた。まるで、「本物の標的はお前だ」とでも言うように。
夕闇に照らされる彼女は艶かしい唇を動かし、間違いなく「次は当てる」と言っていた。
――なんという事だ。俺はとんでもない奴の逆鱗に触れちまったらしいぞ。
言い訳するわけじゃないが、昨日の記事はちょっとした軽口だった。彼女なら冗談だと理解してくれると分かっていた。だからあれだけ攻めた内容になるのだ。
誰かさんが「そんな事言ってたら撃ち殺される」なんて冗談を言いやがったもんだから、それが言霊になっちまったのか……? いや、すぐ死ぬかもしれない状況下で、わが身に起こる不幸を人のせいにするのはやめよう。それはあまりにも見苦しいというものだ。
だが、このまま死んだとしたらあまりに無念だ。火星人には冗談が通じないのか? まあ、たしかに地球人の冗談が通じないっていう可能性はあっただろう。軽口を言ったら殺されかけるなんて、カルチャーショックにも程があるぞ。もしかしたら向こうは「来世で頑張れ」ぐらいの気持ちでライフルをぶっ放したのかもしれない。
ああ、神よ、こんな時だけ頼りにして悪いが、なんとかこの苦境から俺を救い出してくれ。俺にはまだやらなければいけない事がある。
彼女が皆の視界から少し消えた間に何が起こったのか、読者の誰一人知りやしないだろう。
まだ死ぬわけにはいかない。俺はまだ生き延びないといけない。
ひとまず今日は身を隠す。自分の代わりに撃たれた人を思い、俺は密かに十字を切った。
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