先日ご紹介しました
牛野小雪氏の新作
「ヒッチハイク!: 正木忠則君のケース」を読了しました。
この小説を一言で説明するなら、主人公がヒッチハイクのみで東京から徳島に帰省して盆が終わりきらない頃にまた東京に戻るという話ですね。
……このままだと牛野氏に営業妨害で訴えられかねないので、もう少し詳しく話を書いていきます。
大学三年生の
正木忠則君は『お盆にはそっちへ帰る』という手紙を実家に郵送し、ヒッチハイクで徳島に帰る事を決意します。一度東京から伊豆までヒッチハイクに成功し、今度は徳島まで行ってやろうという野望が出来たみたいです。若者特有の無謀さですね。
ですが、
何を思ったのか正木君、最初は徳島とは反対方向の福島へ向かう車をヒッチハイクし、いきなり読者を心配させます(笑)。
歴代牛野作品の主人公達が織り成した伝統を引き継ぎ、マイペースすぎる人間性を存分に発揮すると、謎の武道家(?)のじいさんが経営する旅館に泊めてもらい、何も言い残す事なく次の目的地へと旅立ちます。私が正木君の傍にいたら「待たんかいコラ」ぐらい言ったかもしれません(笑)。
その後はカニを運んでいるアメリカかぶれのトラック野郎と、なぜかボンネットに侵入して蒸し焼きになったカニを仲良く食べたり、小料理屋の美人女将の世話になって隣同士で寝るもこれと言って何も起こらなかったり(笑)、まさかの暴走族をヒッチハイクして琵琶湖まで行ったり、今度は本当のアメリカンヒッチハイカーと出会って彼のワイルド過ぎる属性に振り回されたりと、気付けばどんどん作品を読まされているという恐ろしい麻薬性を持った作品ですね。
ここからが個人的な感想です。
毎回牛野小雪氏の作品には主人公がどこかを旅する→精神的にたくましくなって帰って来るみたいな話が多い気がするのですが、今作は珍しく旅が終わった後の話が書かれているんですね。姉の夏未とドライブをうるあたり、ヒッチハイクで変わった正木君の姿が彼女にとってどう映ったのか気になるところです。
上記以外にも濃いキャラが色々と出て来ては消えるのですが――ちなみに牛野氏を思わせる小説家や、八幡市出身のストリートミュージシャンとか、今までに無いハイコンテクストなところも散見されました(笑)――どの出会いも単なるイベントと化してはいなく、かといって出来事単体がその先の伏線になっているわけでもない。やたらリアルなんですね。そういう体験をした事がないのに「ああそうそう、そんなんあるわー」と言いたくなるようなエピソードが沢山詰まっていました。
作中で正木君は美人女将さんと闇キャバの女性二人の部屋に泊まっているのですが、予想通り何も無く終わるというところに筆者が持つメンタルの強さが反映されている気がします。おそらく牛野氏が同じ状況になったら本当に何もせずに終わらせそうです。その代わり顔に油性マジックで「バカ」とか落書きをされる可能性はありますけど(笑)。
暴走族と琵琶湖に行く話もなんかもリアルなんですよねえ。コレ、三割ぐらいは実話じゃねえの? っていう……。
しかし今回は書評が難しいですねえ。メインイベントみたいなものが作中に存在せず、どの出来事も並立的に重要なんですよね。そこから「コレだ!」っていう出来事を選ぶのはなかなか難しい。面白さを他人に伝えるのは難しいのですが、通して読んでみればやっぱり牛野氏の作品だったという感じですし、氏のファンなら間違いなく楽しめる作りになっているでしょう。作品の属性としてはスルメ的なものを持っていますね。
この作品を分かりやすく一言で表すなら
猿岩石の話を夏目漱石に書かせた感じでしょうか。猿岩石の旅番組は終わった後に聞いた話ばっかりであんまり知らないんですけど(笑)。
いやしかし、牛野氏の書くスピードがどんどん早くなっているような……。
牛のように書くのが遅くなくなれば、
兎野小雪(うさの しょうせつ)に改名するのもアリですね。最終的には
豹野小雪(ひょうの しょうせつ)とかになるんでしょうね。
(チーターをくっつけてみたらチーター野小雪になってしまいました。これはダサいので却下)
また今年中に長編小説の一本や二本は上げてくるでしょう。
次回作も旅モノでくるのか。楽しみに待っています。
スポンサーサイト