いつか読もうと思っていたのですが、本格ミステリでメフィスト賞上段組の作品という事で「読みた~い」というテンションになるまで読書を引っ張っていた作品の書評です。
藤崎ほつま氏の
「キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄」を読了しました。
本作のストーリーをざっくり説明すると、主人公でパッとしない高校生の
市原君が、スクールカーストの頂点にいるイケメン&頭イイの
新城君と凸凹な友情を育みながら、彼らの同級生を巻き込んだ殺人事件を解決する話ですね。
この味気ない紹介だと作品が売れなくなってかえって営業妨害になりかねないので、もう少し本作に設定について話していきます。
スクールカーストの頂点にいる新城君は、実は一方的に市原君の心が読めるんです。ハイ、理不尽ですね。
もし私だったらこれからどうやってDMMを見たらいいのか途方に暮れる事でしょう。当然新城君には市原君が誰を好きなのかも把握しています。
離れていても市原君が見たり感じたりする事を遠くで知覚出来るのですから、これは爽やか路線が書けない(そもそも書くつもりなんぞ毛頭もない)私には書けない世界でございますね。間違いなくR18になってしまう(笑)。
まあ、無駄口はどうでもいいです。本編は原稿用紙500枚超えの大作なのですが、この小説のメインイベントである殺人事件はちょうど半分ぐらいで起こります。
多分これぐらいのネタバレなら書いても大丈夫だと思いますが、殺されていたのは市原君が通っている予備校の講師である、
毛利先生というイケメンでした。ちなみに、彼は殺害される直前に、市原君の同級生であるJKカーストの最頂点に君臨する、
真壁世蘭(まかべ せいら)と
花火大会でデートしており、市原君ご一行は彼ら二人に会っているわけですよ。
個人的には
「生徒に手を出す予備校講師なんて死ねばいい」と思っていたので、
夢を叶えてくれた作者に心中で喝采を送りました(笑)。いやあ、スッキリしました。
ところが、殺人事件は終わりません。
ある土砂降りの日に、とうとう市原君の仲間の一人に、殺人鬼の魔手が……。
犯人は一体……? そして、その犯人はどんな手を使って二人を殺害したのか?
市原君は新城君と文字通り以心伝心で情報を交換しつつ、犯人を捜していきます。
とまあ、こんな話です。
本作のスゴイところは、
実は殺人事件がそんなに重要なファクターではないんじゃないか? というところですかね。どちらかというとヒューマンドラマの方が大事で、ネタバレになるから書けないんですけど、真犯人が何を思って犯行に及んだのかとか、市原君の成長、葛藤、そして高校生とは思えない器の大きな優しさ発揮するところは、狭い世界を書いていながらも広い懐を持った作品であると思いました。
なんとなく真犯人のくだりは
「すべてがFになる」を彷彿とさせましたし、後味が悪いのに読後にクセのある余韻を残すところ、そして明らかに次回作を書く下地を用意しているところなんかは
「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」を思い出しました。メフィスト臭が滴っております(笑)。
あと、非常にどうでもいい話なんですが、本作のヒロイン的な立ち居地に
江藤凛(えとう りん)という女子高校生がいるのですが、拙著
「プロミス・リング」でもヒロイン的な立場にいる人が
江藤凛なんですよね。ハイ、私だけが感じた謎の親近感です(笑)。
個人的にすごい嫌な気分になったのに「ここ良かったわー」というくだり――矛盾してますが同じような感想を持った人もいるのでは?(笑)――は真犯人との答え合わせというか、犯人がなぜそこまでしなければいけなかったのか――説明は理路整然としていましたが、
実際は犯人も自分の犯行動機については理解出来ていないと思います――語るシーンは読み応え十分。「ねえ、この時代ってこんな(嫌悪感を感じる)モンなんですか?」と作者に抗議したくなる反面、「でも
人間失格でも主人公が他者が見る自分と本当の自分の乖離に悩んでいたしな」と納得してしまうところもあるのです。
次回作で犯人は何かしらケジメをつけるのか、それとも自己の行いを正当化してさらなる犯行に及ぶのか、気になるところです。
ところで
もう次回作があると明言してしまった事に気付きました(笑)。ご本人からは何も聞いていません。
本作は少なくとも著者の藤崎ほつま氏がメフィスト賞を受賞するまでは無料で読む事が出来ます。ミステリモノを書いている人は教材として読むのもいいでしょう。実際にはスゴイ事をやっているのに、読んでいる間にはそれをまったく感じさせないスゴ腕の持ち主です。
語彙も高校卒業よりもちょっと上ぐらいで、読みやすい作品になっています。
オススメです。
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