新作の断片
- 2022/10/10
- 15:26
――試合当日、小幡はデビュー三戦目に快勝した。前戦二試合とは打って変わって、生き生きとした動きでリングの上をサークリングすると、追い足の無い対戦相手をピラニアのように縦横から喰い尽くした。
不用意に出したジャブに右クロスを合わせると、凄まじい勢いで踏み込んで左右のフックとアッパーで滅多打ちにした。短い時間に十発近い連打を受けた相手は、ガードを固めたまま崩れ落ちた。レフリーは問答無用で試合をストップさせる。
会場にどよめきが起きた。
数秒前までは無名の4回戦ボーイだった選手が、途轍もない可能性を持った選手に見える。誰が見ても、埋もれた天才がその姿を現した瞬間だった。
小幡は上機嫌だった。
少しは褒めてくれるだろうかと、浮かれた風に自陣のコーナーへと戻る。大迫は目を合わせずにすれ違い、相手陣営に抑揚の無い声で挨拶をしていた。
塩対応を超えた冷遇は今に始まった事ではない。だが、言いようのない寂しさを一瞬だけ憶えて、サブセコンドを務めた同僚のボクサーとハイタッチした。大迫はすでに控室まで歩いているところだった。
控室まで戻ると、大迫はすでにいなかった。他の関係者に訊いたら、申し訳無さそうに帰ったと言った。どうやら骨の髄まで嫌われているらしい。大して驚く事も無く、シャワーを浴びて帰り支度を整えた。
不用意に出したジャブに右クロスを合わせると、凄まじい勢いで踏み込んで左右のフックとアッパーで滅多打ちにした。短い時間に十発近い連打を受けた相手は、ガードを固めたまま崩れ落ちた。レフリーは問答無用で試合をストップさせる。
会場にどよめきが起きた。
数秒前までは無名の4回戦ボーイだった選手が、途轍もない可能性を持った選手に見える。誰が見ても、埋もれた天才がその姿を現した瞬間だった。
小幡は上機嫌だった。
少しは褒めてくれるだろうかと、浮かれた風に自陣のコーナーへと戻る。大迫は目を合わせずにすれ違い、相手陣営に抑揚の無い声で挨拶をしていた。
塩対応を超えた冷遇は今に始まった事ではない。だが、言いようのない寂しさを一瞬だけ憶えて、サブセコンドを務めた同僚のボクサーとハイタッチした。大迫はすでに控室まで歩いているところだった。
控室まで戻ると、大迫はすでにいなかった。他の関係者に訊いたら、申し訳無さそうに帰ったと言った。どうやら骨の髄まで嫌われているらしい。大して驚く事も無く、シャワーを浴びて帰り支度を整えた。
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