新作の断片
- 2022/09/10
- 23:05
事件はその珍トレーニングの動画が原因となった。
ある日、ロキ少年は過激な企画をやり始めた。それは、ボクサーのアッパーでスカートはめくれるのか、というものだった。深夜番組のくだらない企画のノリで、タイトル通りアッパーカットの風圧でスカートがめくれるかというチャレンジだった。
動画には頭の悪そうな中学生の女子が出演した。ロキ少年に色目を使う年上の少女だった。
学生服を着た金髪の中学生は、やたらとツインテールの毛を巻いていて、隠しようのない幼さの残る顔に濃い化粧を施していた。全世界へと動画が発信される事を意識して、気合を入れてきたようだった。
少女が公園の芝に立つと、やたらと丈の短いスカートが微風に揺れた。プリーツスカートに浮かぶ身体のライン――この時点ですでにいくらか見えそうだった。
ロキ少年は企画の趣旨をカメラに向かって説明すると、「これもトレーニングだ!」と気合を入れてからアッパーを振り上げた。視聴者の期待に応えるべく、天へ向かって拳を突き上げる。
だが、現実の世界においてスカートをアッパーでめくるのは非常に難しい。風にめくれるイメージこそあれ、スカートの生地は見た目よりも重い。近くでアッパーを打ったぐらいの風圧では軽く膨らむ程度で、派手にめくれる気配などまったく無い。
ロキ少年は計算外の事態に嫌な汗をかきはじめた。タレントではないにしても、この動画の行く末が「しょっぱい」ものになるのは目に見えていた。このまま行けば過去最高につまらない動画の出来上がりだろう。そうなると「いいね」はもらえない。
むきになって全力で何発もアッパーを放つ。しゃがんでいる対戦相手にダッシュアッパーを打ち続けるバイソンのようだった。
――めくれろ。
心の叫び。それは神に届かない。
ツインテールの少女が苦笑いを浮かべる。中学生なりに、番組中で発生した「事故」に感づいたようだった。
――このままでは企画がつぶれる。
小学生の脳裡に浮かぶ、年齢にそぐわない焦り。
その時、ロキ少年はスカートを掴んで振り上げた。
わざとらしい響きをした、黄色い悲鳴。動画には、少女のスカートをしっかりと握ったままの少年が、虚空でその拳を静止させていた。
紫色の、透けたショーツ。網タイツのようにも見える淫らなデザインは、少女が「世界デビュー」を意識した勝負下着だった。
「アッパーでスカートはめくれました」
「も~バカ~!」
甘ったるい声。うまく「オチた」と思った。
少なくとも、どうしようもなく頭の悪い少年と少女は。
愚かな彼らは、世の中には炎上というものが存在する事を理解していなかった。
ある日、ロキ少年は過激な企画をやり始めた。それは、ボクサーのアッパーでスカートはめくれるのか、というものだった。深夜番組のくだらない企画のノリで、タイトル通りアッパーカットの風圧でスカートがめくれるかというチャレンジだった。
動画には頭の悪そうな中学生の女子が出演した。ロキ少年に色目を使う年上の少女だった。
学生服を着た金髪の中学生は、やたらとツインテールの毛を巻いていて、隠しようのない幼さの残る顔に濃い化粧を施していた。全世界へと動画が発信される事を意識して、気合を入れてきたようだった。
少女が公園の芝に立つと、やたらと丈の短いスカートが微風に揺れた。プリーツスカートに浮かぶ身体のライン――この時点ですでにいくらか見えそうだった。
ロキ少年は企画の趣旨をカメラに向かって説明すると、「これもトレーニングだ!」と気合を入れてからアッパーを振り上げた。視聴者の期待に応えるべく、天へ向かって拳を突き上げる。
だが、現実の世界においてスカートをアッパーでめくるのは非常に難しい。風にめくれるイメージこそあれ、スカートの生地は見た目よりも重い。近くでアッパーを打ったぐらいの風圧では軽く膨らむ程度で、派手にめくれる気配などまったく無い。
ロキ少年は計算外の事態に嫌な汗をかきはじめた。タレントではないにしても、この動画の行く末が「しょっぱい」ものになるのは目に見えていた。このまま行けば過去最高につまらない動画の出来上がりだろう。そうなると「いいね」はもらえない。
むきになって全力で何発もアッパーを放つ。しゃがんでいる対戦相手にダッシュアッパーを打ち続けるバイソンのようだった。
――めくれろ。
心の叫び。それは神に届かない。
ツインテールの少女が苦笑いを浮かべる。中学生なりに、番組中で発生した「事故」に感づいたようだった。
――このままでは企画がつぶれる。
小学生の脳裡に浮かぶ、年齢にそぐわない焦り。
その時、ロキ少年はスカートを掴んで振り上げた。
わざとらしい響きをした、黄色い悲鳴。動画には、少女のスカートをしっかりと握ったままの少年が、虚空でその拳を静止させていた。
紫色の、透けたショーツ。網タイツのようにも見える淫らなデザインは、少女が「世界デビュー」を意識した勝負下着だった。
「アッパーでスカートはめくれました」
「も~バカ~!」
甘ったるい声。うまく「オチた」と思った。
少なくとも、どうしようもなく頭の悪い少年と少女は。
愚かな彼らは、世の中には炎上というものが存在する事を理解していなかった。
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