新作の断片

「許さん、許さんぞおおおおお」

　不思議ちゃんキャラが完全に崩壊している。

　爛れた顔。焼け焦げた髪。美少女の面影はどこにもなかった。

　アリスの口が耳付近まで裂けて、ホオジロザメを思わせる巨大な牙が剥き出しになる。まぎれもないバケモノ。凄まじい勢いで雪乃のいるビルに飛びつき、雪乃のいる屋上まで八本の脚でよじ登っていく。

　早い――それだけで十分おぞましい光景だった。

　雪乃に危機が迫っている。

　火炎放射器は威力がある分、その重量で動きが鈍重になる。どう考えても防火服に身を包んだ雪乃があの蜘蛛から逃げられる可能性は無い。捕まれば首ごと喰いちぎられる。

　塔子が走る。汗で透けたシャツのボタンを一つ一つ外して、豊かな双乳を剥き出しにする。揺れる巨乳。その上にぶら下がったリボンが風に煽られて揺らめいている。

　疾走――制服の前がはだけたまま跳ぶ。

　尋常でない跳躍力。ビルとビルの間を三角跳びの要領で昇っていく。ロックスマンＸの親戚と言われたら信じそうな身のこなしだった。

　大蜘蛛が迫る。雪乃が戸惑う。自分の真下から高速で這い上がって来るせいで、火炎放射器の狙いを定めるのが困難になった。狙いを間違えたら自分ごと焼き殺す事になる。

　アリスが目を血走らせる。雪乃の目の前まで這い上がり、跳んだ。

　ピンクスパイダー。桃色の蜘蛛が空に浮かぶ。

　恐怖。雪乃が身体を竦める。

　――くノ一忍法、爆乳業火（ばくにゅうごうか）。

　深夜の街で、ふいに頭のおかしい必殺技名が響く。