新作の断片
- 2022/06/19
- 23:52
「で、こいつをどうするの?」
当然の疑問だった。あんなバケモノを街中で探すのはオオクワガタを見つけるよりも骨の折れそうな仕事だ。
「囮だ」
「囮?」
――嫌な予感。
大二郎が自信満々に口角を上げる。
「そうだ。こいつは夜道を歩く人間を襲う。いわば夜行性の肉食獣と本質は変わらない。そこは普通の虫と変わらないんだろう」
「……」
「つまりだ。こいつは旨そうな肉の匂いがあればおびき寄せられると俺は考えている」
大二郎が手元の紙に下手クソなスケッチを書いて作戦を解説する。
白い紙の上で長い髪を雑に書かれた女性らしき絵。そこに黒い団子のようなものがグリグリと書かれ、矢印で女性らしき絵へと近付く図が描かれる。
「そして塔子ちゃんにこのクソ蜘蛛が近付いて来た時に……こうだ!」
大二郎は赤ペンを激しい勢いでグリグリと紙で往復させ、雑な巨大蜘蛛を赤く塗りつぶしていく。
「ちょっと待って。この赤は何なのよ?」
「火炎放射器だ」
寸分の間もなく言い放つ大二郎。この男は塔子をテロリストに仕立て上げたいようだ。
塔子は絶句する。
そもそも作戦が雑な上に危険すぎる。自分が餌となってグリズリーよりも危険な巨大蜘蛛をおびきよせるなど誰が見ても自殺行為だ。シロクマに挑んで秒殺されるオモシロ格闘家のような末路が待っているに違いない。
それにたとえ火炎放射器があったとしても、あの巨大蜘蛛に当たるのかが怪しい。素早く避けられて齧られるのがオチなのではないか。
先ほどの衝撃映像は見る者すべてを戦慄させる。人間でないものにどう勝つかを真剣に吟味する人間が武井壮以外にいるのか。それほど非現実的な話だった。
「実際に囮作戦をやるとすると……」
塔子が腕組みして続ける。
「まさか火炎放射器を持って歩くわけにもいかないわよね。職質に遭ったら捕獲されるのはあたし達になると思うけど」
至極当然の疑問だった。
そもそも火炎放射器で武装しながら街を闊歩したらヤクザ同志での抗争でも始まったのかとパトカーが大挙して押し寄せるだろう。下手をすれば自衛隊やSATあたりまでもが駆け付ける。近所に迷惑をかけるような作戦は良くない。
「得意の忍法でどうにかならないのか。手から火を出す魔法みたいな」
「バカ言わないで。あたしは人間よ」
二人とも黙る。やはり大二郎の作戦は無茶がありすぎる。
作戦そのものが「おとりつぶし」になりかけたところ、雪乃がふいに口を開く。
「わたしがやろうか?」
「は?」
塔子が絶句する。雪乃が何を言っているのか理解が出来なかった。
当然の疑問だった。あんなバケモノを街中で探すのはオオクワガタを見つけるよりも骨の折れそうな仕事だ。
「囮だ」
「囮?」
――嫌な予感。
大二郎が自信満々に口角を上げる。
「そうだ。こいつは夜道を歩く人間を襲う。いわば夜行性の肉食獣と本質は変わらない。そこは普通の虫と変わらないんだろう」
「……」
「つまりだ。こいつは旨そうな肉の匂いがあればおびき寄せられると俺は考えている」
大二郎が手元の紙に下手クソなスケッチを書いて作戦を解説する。
白い紙の上で長い髪を雑に書かれた女性らしき絵。そこに黒い団子のようなものがグリグリと書かれ、矢印で女性らしき絵へと近付く図が描かれる。
「そして塔子ちゃんにこのクソ蜘蛛が近付いて来た時に……こうだ!」
大二郎は赤ペンを激しい勢いでグリグリと紙で往復させ、雑な巨大蜘蛛を赤く塗りつぶしていく。
「ちょっと待って。この赤は何なのよ?」
「火炎放射器だ」
寸分の間もなく言い放つ大二郎。この男は塔子をテロリストに仕立て上げたいようだ。
塔子は絶句する。
そもそも作戦が雑な上に危険すぎる。自分が餌となってグリズリーよりも危険な巨大蜘蛛をおびきよせるなど誰が見ても自殺行為だ。シロクマに挑んで秒殺されるオモシロ格闘家のような末路が待っているに違いない。
それにたとえ火炎放射器があったとしても、あの巨大蜘蛛に当たるのかが怪しい。素早く避けられて齧られるのがオチなのではないか。
先ほどの衝撃映像は見る者すべてを戦慄させる。人間でないものにどう勝つかを真剣に吟味する人間が武井壮以外にいるのか。それほど非現実的な話だった。
「実際に囮作戦をやるとすると……」
塔子が腕組みして続ける。
「まさか火炎放射器を持って歩くわけにもいかないわよね。職質に遭ったら捕獲されるのはあたし達になると思うけど」
至極当然の疑問だった。
そもそも火炎放射器で武装しながら街を闊歩したらヤクザ同志での抗争でも始まったのかとパトカーが大挙して押し寄せるだろう。下手をすれば自衛隊やSATあたりまでもが駆け付ける。近所に迷惑をかけるような作戦は良くない。
「得意の忍法でどうにかならないのか。手から火を出す魔法みたいな」
「バカ言わないで。あたしは人間よ」
二人とも黙る。やはり大二郎の作戦は無茶がありすぎる。
作戦そのものが「おとりつぶし」になりかけたところ、雪乃がふいに口を開く。
「わたしがやろうか?」
「は?」
塔子が絶句する。雪乃が何を言っているのか理解が出来なかった。
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