このブログではお馴染みの
牛野小雪氏が新作をリリースしました。
タイトルは
「山桜」。表紙が短歌(?)や俳句風の文字で埋め尽くされている特徴的なものですね。
本作ね、実は書評がすごく難しいのですよ。というのもストーリーが良くも悪くもつかみどころがないというか、「〇〇が××を倒しにいく話」みたいに分かりやすく説明するのが難しいのです。
主人公は
棗正明(なつめ まさあき)。今たまたま誤変換して気付いたのですが、
夏目のもじりかもしれません。
舞台は近未来を思わせるSF風の日本で、正明は
帝国自動車(ト〇タ?)の戦略企画営業部の部長に就いています。
ここから正明は広告費で経費をまかない、国民全員が自動車を無料で利用出来る画期的な企画を総理大臣の力まで借りて実現させていきます。
おいおい今度は牛野小雪風サラリーマン金太郎かよと思っていたところ、話の展開は思わぬ方向に……。
と、ネタバレ防止にこのぐらいしか書けないのですが、
実は上記のあらすじは物語の3分の1も伝えられておりません。
この後にヒロインの立ち位置にある(?)
和花(わか)と色々あったり、
美島瑠璃子(みしま るりこ)というやや人間離れした美人と出会い、
まあ色々あるのですよ(笑)。
今作は3年前に書かれたそうですが、いい感じで牛野氏の遊びというか、
実験精神がハマった作品という印象でした。
ところどころに真面目なんだかふざけてるんだかよく分からない俳句・短歌が入ったり(笑)純文学っぽさはキープしつつも牛野氏らしいつかみどころのないイベントを要所に盛り込んだりと、結構自由にやっている感じがありました。
ここ最近でリリースした作品では一番伸び伸びと書いているような印象。
まあね、何がいいのかと訊かれると一言で良さを表現するのが非常に難しいのですよ(笑)。それは読んだ人全員がそう思うのではないかとは思うのですが、商業では無いような冒険というか実験的なアプローチをふんだんに盛り込んでいるし、
新しいものを生み出していこうという気概が、息切れ感の無い小説の息吹とともに感じられるのですね。
「ターンワールド」を書いたあたりで「この路線はこれ以上は無理では?」と思ったところもありましたが、今回は違う味を出してきたというか、唯一無二の牛野小雪を出してきた感がありますね。期待の斜め上を行ったというか。
正直一般的な感覚の「面白い」に適合するのかはちょっとよく分かりません。が、決して軽視するべきではない独特の味わいがある新作になったかと思います。この路線はこの路線でさらにすごいものが出てくるのではないかという印象を持ちました。
と、やたら印象印象とうるさい感じの書評になりましたが(笑)、
絵画で言うとモネとか見て何かを感じるものに近いのかもしれません。
これはちょっと説明が難しいので実際に読んでみて下さい。
まず万人受けではないですが、心にひっかかる何かを持った作品です。
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