新作の断片
- 2021/11/22
- 00:00
大二郎の独白
俺は昔、トゥームストーンという愚連隊だかワルの集まりにいた。
地方では有名だったから、もしかしたらお前も知っているかもしれない。トゥームストーンには俺達みたいな社会で拠り所の無い奴らが集まっては悪さをしていた。
極道とまではいかないが、その連結は強固だった。規律はそれなりに厳しいし、それをやぶればそれなりに酷い目にだって遭った。
昔、天竜墓石(てんりゅう とうむ)という男がいた。今の首領、天竜由愛の実兄だ。俺達は彼をトムさんと呼んでいた。
トムさんは最強の不良だった。
当時対抗勢力の愚連隊、アンダーテイカーと抗争を繰り広げた。
トムさんはそこで敵勢の首領を討ち取ったが、アンダーテイカーの残党に殺された。酷い姿になってな。
残された俺は、彼の妹である由愛ちゃんを新しい首領に据え置き、行き場の無いろくでなし達の世話を焼きはじめた。一種の疑似家族のようなものだった。
事件ばかり起こった。喧嘩や犯罪でパクられる奴もいれば、対抗勢力に殺される奴もいた。日本に似つかわない殺伐とした空気――俺達は、その中で生きてきた。
俺達は家族で、それでいていつでもどこか孤独だった。
盃を交わした兄弟。それが何の前触れも無く死んでいき、消えていく。
悲しんではいけない。彼らは明日にもどうなるか分からない命運とともに生きているのだから。
理屈では分かっていた。だが、そんなに簡単に割り切れるものじゃない。
トムさんが亡くなった時、かなり堪えた。これまでに何人もの仲間が抗争や薬物禍、事故で亡くなっていたが、兄貴分でもあり首領でもあったトムさんの死は何かで埋め合わせるには大きすぎる喪失だった。柄にもなく一人で涙を流したよ。
トムさんが亡くなる直前に言った言葉があった。
――どうしようもなく悲しくて、耐えられないくらいつらかったら、無理をしてでも笑ってみろ。その笑いは偽物かもしれないけど、本物に変わる事もある。
案外、本当だった。
トムさんの葬儀で、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
骨壺を持った由愛ちゃんが不憫過ぎて、見ている事が出来なかった。
そんな時に、雨が降ったんだ。
それはすぐに強い雨に変わり、俺達はずぶ濡れになった。
その時、由愛ちゃんが呟いたんだ。
――普段の行いだな。
彼女はけらけらと笑い出して、俺達もそれに釣られてバカみたいに笑っていた。豪雨の中で、頭がイカれちまったみたいに。
そうしたら、悲しみはどこかへと飛んで行った。
別にトムさんの死がどうでもよくなったなんて事じゃない。
だけど、なんていうか、意味があった気がしたんだ。彼がこの世を去ろうとも、その後に俺達が遺された事にも。
誰もが幸せに生きられるっていうもんじゃない。
むしろ俺達は不幸の河を溺れながら生きてきた。時々、息をしている事ですらつらい。
それでも、あの瞬間に何かが変わった気がするんだ。
あの想いは、光は、今でもこの胸に残っている。
間もなく俺も彼の後を追う事になるだろう。
悲しむ事は無い。
俺達はきっとどこかで会える。
きっとどこかで。
だから一つだけお願いがある。
……泣くな。
俺は昔、トゥームストーンという愚連隊だかワルの集まりにいた。
地方では有名だったから、もしかしたらお前も知っているかもしれない。トゥームストーンには俺達みたいな社会で拠り所の無い奴らが集まっては悪さをしていた。
極道とまではいかないが、その連結は強固だった。規律はそれなりに厳しいし、それをやぶればそれなりに酷い目にだって遭った。
昔、天竜墓石(てんりゅう とうむ)という男がいた。今の首領、天竜由愛の実兄だ。俺達は彼をトムさんと呼んでいた。
トムさんは最強の不良だった。
当時対抗勢力の愚連隊、アンダーテイカーと抗争を繰り広げた。
トムさんはそこで敵勢の首領を討ち取ったが、アンダーテイカーの残党に殺された。酷い姿になってな。
残された俺は、彼の妹である由愛ちゃんを新しい首領に据え置き、行き場の無いろくでなし達の世話を焼きはじめた。一種の疑似家族のようなものだった。
事件ばかり起こった。喧嘩や犯罪でパクられる奴もいれば、対抗勢力に殺される奴もいた。日本に似つかわない殺伐とした空気――俺達は、その中で生きてきた。
俺達は家族で、それでいていつでもどこか孤独だった。
盃を交わした兄弟。それが何の前触れも無く死んでいき、消えていく。
悲しんではいけない。彼らは明日にもどうなるか分からない命運とともに生きているのだから。
理屈では分かっていた。だが、そんなに簡単に割り切れるものじゃない。
トムさんが亡くなった時、かなり堪えた。これまでに何人もの仲間が抗争や薬物禍、事故で亡くなっていたが、兄貴分でもあり首領でもあったトムさんの死は何かで埋め合わせるには大きすぎる喪失だった。柄にもなく一人で涙を流したよ。
トムさんが亡くなる直前に言った言葉があった。
――どうしようもなく悲しくて、耐えられないくらいつらかったら、無理をしてでも笑ってみろ。その笑いは偽物かもしれないけど、本物に変わる事もある。
案外、本当だった。
トムさんの葬儀で、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
骨壺を持った由愛ちゃんが不憫過ぎて、見ている事が出来なかった。
そんな時に、雨が降ったんだ。
それはすぐに強い雨に変わり、俺達はずぶ濡れになった。
その時、由愛ちゃんが呟いたんだ。
――普段の行いだな。
彼女はけらけらと笑い出して、俺達もそれに釣られてバカみたいに笑っていた。豪雨の中で、頭がイカれちまったみたいに。
そうしたら、悲しみはどこかへと飛んで行った。
別にトムさんの死がどうでもよくなったなんて事じゃない。
だけど、なんていうか、意味があった気がしたんだ。彼がこの世を去ろうとも、その後に俺達が遺された事にも。
誰もが幸せに生きられるっていうもんじゃない。
むしろ俺達は不幸の河を溺れながら生きてきた。時々、息をしている事ですらつらい。
それでも、あの瞬間に何かが変わった気がするんだ。
あの想いは、光は、今でもこの胸に残っている。
間もなく俺も彼の後を追う事になるだろう。
悲しむ事は無い。
俺達はきっとどこかで会える。
きっとどこかで。
だから一つだけお願いがある。
……泣くな。
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