「昨日の海は」書評
- 2021/10/10
- 00:20
以前読んだ「インフルエンス」が面白かったのもあり、読み放題になっていた近藤史恵の「昨日の海は」を読了しました。いやあ、面白かった。
あらすじを簡単に説明すると、主人公にあたる光介君は地方の海辺で静かに家族と暮らしています。
そこへ母の妹である伯母の芹と、いとこの双葉ちゃんが転がり込んできて突如同居→家族が増えるといった状況になります。伯母の芹はシングルマザー。あまり自身については語りませんが、光介君が生まれた時にはすでにこの世にいなかった祖父と祖母について調査をしています。
物語の途中で祖父母の二人は心中したという話が出てきますが、そこには色々と不審な点があり……という話ですね。ジャンルはミステリ寄りの話でしょうか。でも本格ミステリとは違う。
今作では「わざわざ調べなければ綺麗な思い出でいられたものを」と言いたくなるような、家族の闇を半ば意図的に、半ば図らずも暴いていく流れになります。
写真家であり芸術家であった祖父の存在が、そしてそのモデルを務めた美しい祖母の悲しくも美しい歴史が徐々に姿を現していくにつれ、読み手の心には何とも言えない切なさや寂しさが募っていく。それでいて最後には未来へと目を向けていこうという気持ちの萌芽が同時に芽生えるという、不思議な側面を持った作品でもあります。
他のレビューでもいくらか触れられてはいるのですが、作中でこれといった大事件は起こらないのですよ。だけど、読んだ後に残るものはずっしりと重い。私自身が書き手だというのもあり、物語には奇を衒ったり大事件を起こしたりする必要は必ずしもないのだなと再認識させられる小説でもありました。
これね、色んな視点から見ていると「思い出が美しい思い出を保っていられるように、真実なんて明かさない方がいいのに」と思う部分と「でも光介君、真実を知りたい。それがどのように家族へ影を投げかけたのかを知りたいという気持ちはよく分かるぞ」という背理的な気持ちが同時に味わえるのですね。これはおそらくすべての読者が多かれ少なかれそのように感じるのではないでしょうか?
本作のすごいところは家族の闇に触れはするのですけど、そこから踏み出して未来へと向かって行くよう励まされている気がするのですね。
作者がどういう意図でこの物語を書いたかまでは知りえませんが、読後に少なくない感銘を与え、余韻を残したまま未来への希望を感じさせてくれる本作からは、感情を抑えた筆致の裏に隠れた優しさや手の温もりを感じられたような気がするのです。
読み放題対象作品なので、ぜひ読んで欲しいですね。
こっちもよろしく!
あらすじを簡単に説明すると、主人公にあたる光介君は地方の海辺で静かに家族と暮らしています。
そこへ母の妹である伯母の芹と、いとこの双葉ちゃんが転がり込んできて突如同居→家族が増えるといった状況になります。伯母の芹はシングルマザー。あまり自身については語りませんが、光介君が生まれた時にはすでにこの世にいなかった祖父と祖母について調査をしています。
物語の途中で祖父母の二人は心中したという話が出てきますが、そこには色々と不審な点があり……という話ですね。ジャンルはミステリ寄りの話でしょうか。でも本格ミステリとは違う。
今作では「わざわざ調べなければ綺麗な思い出でいられたものを」と言いたくなるような、家族の闇を半ば意図的に、半ば図らずも暴いていく流れになります。
写真家であり芸術家であった祖父の存在が、そしてそのモデルを務めた美しい祖母の悲しくも美しい歴史が徐々に姿を現していくにつれ、読み手の心には何とも言えない切なさや寂しさが募っていく。それでいて最後には未来へと目を向けていこうという気持ちの萌芽が同時に芽生えるという、不思議な側面を持った作品でもあります。
他のレビューでもいくらか触れられてはいるのですが、作中でこれといった大事件は起こらないのですよ。だけど、読んだ後に残るものはずっしりと重い。私自身が書き手だというのもあり、物語には奇を衒ったり大事件を起こしたりする必要は必ずしもないのだなと再認識させられる小説でもありました。
これね、色んな視点から見ていると「思い出が美しい思い出を保っていられるように、真実なんて明かさない方がいいのに」と思う部分と「でも光介君、真実を知りたい。それがどのように家族へ影を投げかけたのかを知りたいという気持ちはよく分かるぞ」という背理的な気持ちが同時に味わえるのですね。これはおそらくすべての読者が多かれ少なかれそのように感じるのではないでしょうか?
本作のすごいところは家族の闇に触れはするのですけど、そこから踏み出して未来へと向かって行くよう励まされている気がするのですね。
作者がどういう意図でこの物語を書いたかまでは知りえませんが、読後に少なくない感銘を与え、余韻を残したまま未来への希望を感じさせてくれる本作からは、感情を抑えた筆致の裏に隠れた優しさや手の温もりを感じられたような気がするのです。
読み放題対象作品なので、ぜひ読んで欲しいですね。
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