新作の断片
- 2021/05/27
- 23:37
「それじゃあご褒美のチューね」
かがむ骸(むくろ)。その頬に波野仁奈が軽くキスをした。表情を変えない不愛想な男。右手を軽く握っている。ステルス・ガッツポーズなのだと思うと腹が立った。
「別に、骸君じゃなくてもイケメンはいくらでもいるし」
麗奈は誰にともなく言った。
実際のところ骸はイケメンどころか極道に近い人相なのだが、小学生の世界でモテている人は実物以上にイケメンに見える現象はこの監獄でもあるらしい。
自由時間。ならずもの達がプールのあちこちで思い思いに遊んでいる。
クラスの女子達は目をキラキラさせながら骸の身体にまとわりついていた。水で全身が見えないが、どさくさに紛れて下の方も触っているんじゃないか。麗奈はその輪に入っていけない。自分の見えないところで卑猥な事をしているのかと思うと、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「爆発しろ、バカ」
思わず呪詛が出てくる。
今まで自分が一番骸に近い存在だった。
その地位をあっという間に覆されたようで、行き場の無い怒りが出てきた。後から来た女を拒む事もなく、自分をないがしろにする骸の態度にも腹が立った。次から絶対に地味な水着で来てやる――心の中で、麗奈は固く誓った。
水から顔を出したまま、平泳ぎで進んでいく。
「そうだ。爆発しろ」
「え? なに?」
麗奈は泳ぐのをやめ、周囲を見回す。
どこかから途轍もなく気持ちの悪い声が聞こえてきた。
「なんなの……?」
ホラー映画ならバケモノでも出てきそうな兆候に怯える。この監獄には何が住んでいてもおかしくない。
その時、プールの向こう側から水に浮いた泡が流れてきた。
泡は麗奈の腕にあたり、ぱちんと弾けた。
「なに?」
泡はもっとたくさん流れてくる。
誰か洗剤でも流し込んだの?
そう思った刹那。
「しあわせな奴らは、全員爆発しろ」
――空耳じゃない?
麗奈は恐怖に満ちた顔で周囲を見回す。
なに? なんなの?
今度はなにが出てくるの?
気持ち悪い静寂。ふとプールの壁際を見ると、幽霊のようにぼんやりとした男が壁に寄りかかっている。
泡はそこから発生していた。
「身体から泡が出てる?」
男の二の腕からはぬめった液体が流れ、それはプールに起きたさざ波と混ざっていくつもの泡を形成していく。
「まさかこいつが……バブルマン?」
かがむ骸(むくろ)。その頬に波野仁奈が軽くキスをした。表情を変えない不愛想な男。右手を軽く握っている。ステルス・ガッツポーズなのだと思うと腹が立った。
「別に、骸君じゃなくてもイケメンはいくらでもいるし」
麗奈は誰にともなく言った。
実際のところ骸はイケメンどころか極道に近い人相なのだが、小学生の世界でモテている人は実物以上にイケメンに見える現象はこの監獄でもあるらしい。
自由時間。ならずもの達がプールのあちこちで思い思いに遊んでいる。
クラスの女子達は目をキラキラさせながら骸の身体にまとわりついていた。水で全身が見えないが、どさくさに紛れて下の方も触っているんじゃないか。麗奈はその輪に入っていけない。自分の見えないところで卑猥な事をしているのかと思うと、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「爆発しろ、バカ」
思わず呪詛が出てくる。
今まで自分が一番骸に近い存在だった。
その地位をあっという間に覆されたようで、行き場の無い怒りが出てきた。後から来た女を拒む事もなく、自分をないがしろにする骸の態度にも腹が立った。次から絶対に地味な水着で来てやる――心の中で、麗奈は固く誓った。
水から顔を出したまま、平泳ぎで進んでいく。
「そうだ。爆発しろ」
「え? なに?」
麗奈は泳ぐのをやめ、周囲を見回す。
どこかから途轍もなく気持ちの悪い声が聞こえてきた。
「なんなの……?」
ホラー映画ならバケモノでも出てきそうな兆候に怯える。この監獄には何が住んでいてもおかしくない。
その時、プールの向こう側から水に浮いた泡が流れてきた。
泡は麗奈の腕にあたり、ぱちんと弾けた。
「なに?」
泡はもっとたくさん流れてくる。
誰か洗剤でも流し込んだの?
そう思った刹那。
「しあわせな奴らは、全員爆発しろ」
――空耳じゃない?
麗奈は恐怖に満ちた顔で周囲を見回す。
なに? なんなの?
今度はなにが出てくるの?
気持ち悪い静寂。ふとプールの壁際を見ると、幽霊のようにぼんやりとした男が壁に寄りかかっている。
泡はそこから発生していた。
「身体から泡が出てる?」
男の二の腕からはぬめった液体が流れ、それはプールに起きたさざ波と混ざっていくつもの泡を形成していく。
「まさかこいつが……バブルマン?」
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