新作の断片

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　悪寒がした。理由は分からない。

　日曜日の公園。しばらくぶりに娘を連れてやって来た。

　こういう瞬間があると、家族がいるというのはいいなと思う。社会人になってすぐの頃、子供の何がかわいいのかさっぱりわからなかった。洟を垂らし、ギャーギャーわめき、あちこちを走り回って周囲を心配させる。あの生き物たちのどこにかわいさがあるのだと心底思っていた。

　だけど、自分が子供を持って価値観が変わった。

　腕の中で泣き叫ぶ生命（いのち）。それが自然とかわいいと思えるようになった。これが父性というやつなのだろうか。

　あれだけ愛おしかったはずの妻は知らぬ間にただの怖い女になったが、代わりに子供が心を満たしてくれるようになった。

　友達と駆けずり回る娘。その姿はどれだけ見ていても飽きない。

　でも、この幸せな瞬間もあっという間に過ぎ去ってしまうのかもしれない。あと何年もすれば娘は俺を疎ましく思いはじめ、ゴミでも見るような視線を俺に向けてくる。

　あの幸せだった時はいずこに――そんな未来がきっと来る。

　嫌だ。

　今から暗い未来を想像してブルーになる。

　とりあえず悪さを覚えないような育て方ぐらいはしておこう。やり方なんて知らないけど、悪い友達からは遠ざけて……。

　不幸な女に散々同情してきた。

　彼女達を助けたいとは思ったが、不幸な女たちを量産する必要もない。

　娘だけは幸せにしよう。

「パパ、みてみて」

　娘が呼んでいる。

　無残に茎から引きちぎられたタンポポ。ひどいクオリティの花束にして手渡される。

　かわいそうに、と思うべきなのに、娘から愛されていると思うとそのような思考はどこかへ追いやられてしまう。

　これが愛なのか。

　それならば、愛というのはその盲目ぶりから必然的に惨禍を生むものなのかもしれない。

　……やめよう。

　もう中二病って年じゃない。