出すか出さないか微妙な新作の断片

　まったくブレずによく言えば優等生、悪く言えば目標がないからとりあえずエリートコースを進んでいった俺は、何の苦労もなく大学に進学してとれる単位をすべて取ってゼネコンに就職することとなった。

　理由は大してない。そういう生き方をしていけば無難なように見えただけだ。

　どこに行っても即戦力になった俺は、人生を無難中の無難で生きていったが、同時にすべてがシナリオ通りにいく日常に退屈さを感じていた。

　加えて、俺には弱点が一つあった。

　童貞――時と場合によっては第二次世界大戦下のユダヤ人並みに迫害を受ける人種。そして、何事についても常に冷徹だった俺がイジられると本気でキレる唯一の要素。それが童貞だった。

　建設業の世界にいれば荒くれ者やアウトローを相手にしないといけない場合もある。その風土もあってか、男しかいない場での下ネタはどぎつい。口に出すのもはばかれるような言葉が喫煙室や男子トイレを飛び交う。

　それで女性社員がいる場所ではそのような会話をしていた空気はまったく見せないのだ。30歳を過ぎた童貞は魔法が使えると聞いたが、お前らだってなかなかなマジシャンじゃないか。

　そんな奴らの巣窟で生きる俺は、断じて自分が童貞だということがバレてはいけなかった。

　だが、ユダヤ人がゲシュタボに見つかるように、派手な女遊びに興じている男達の中に童貞が混ざると、その特徴はすぐに見抜かれる。