出すか出さないか微妙な新作の断片（徐々にホラー）

　涙が出てくる。

　スマホが鳴っただけなのに。

　彼かもしれない。

　かすかな希望が裏切られるだけで、まっ平らな胸がいちいち傷付いた。

　わたしのことを本気で好きになって、お金を使い果たすまで通いつめた人たちもいた。

　彼らも、わたしから電話が来たかもしれないって喜んではすぐに落ち込む夜を過ごしていたのかな。因果応報ってやつ？

　非通知の電話は週に何回か鳴った。

　わたしに恨みのある誰かが公園のトイレあたりに「絶対にヤれる女」とか書いているのかもしれない。

　占い。
　イタズラ。
　頭のおかしい政治団体。

　――彼じゃない。

　宗教の勧誘。
　振り込め詐欺。
　ヘイトスピーチへの呼び出し。

　――彼じゃない。

　どいつもこいつも頭のおかしい奴ら。

　彼を待つわたしをバカにするみたいに、非通知でわたしのスマホを鳴らす。

　それでも非通知を解除することはできなかった。

　その瞬間に彼との間に渡された細い糸が切れてしまうみたいで、そんな思いをするぐらいなら変な電話なんていくらだって耐えられた。

　どうしたら彼に会えるのだろう？

　ふと思った。

　向こうから電話が来ないなら、こっちから彼を見つけたっていい。

　いや、約束は彼がわたしを迎えにくることだったけど、わたしがお店をリストラになった時点でそれ自体が叶わなくなった。だったら待つ必要なんてない。

　運命は自分で切り開く。

　妙に、この時ばかりは力強い言葉がおなかの底からわき立ってきた。

　愛は力だっていうのは案外本当なのかもしれない。

　ええと、彼の手がかりってあったっけ？