新作の断片
- 2020/06/26
- 00:53
金網の両端から男二人が入って来る。一人はサモア人風の黒人で、低い身長にだぶついた腹。それでいて二の腕は恐ろしく隆起していた。
もう一人は全身がタトゥーに覆われた白人。刺青の面積が多すぎて、センスの悪いダイビングスーツを着ているみたいだった。
双方とも眼は血走っている。薬でもキメているのかもしれない。そこには明白な殺意があった。
レフリーとおぼしき男。昔のヤングジャンプにでも出てきそうなリーゼントだった。試合開始前からおっぱじめようとする二人を制して、金網の両端へ行くよう指示を与える。
狂った歓喜。過剰な興奮。下手な興行を遥かに凌駕する熱量の中、ゴングが鳴らされた。
素手――最初に目に付いたのは、剥き出しの拳だった。
昨今の格闘技では、せめてオープンフィンガーグローブを付けるのが常識だ。それですら「これで人間を殴っていいのか」という疑問さえある。
だが、画面に映る荒くれ者達は素手で殴り合いを始めた。殴った者勝ちとでも言わんばかりに、機先を制して先にパンチを当てようとしている。
サモア人が身体を振る。出来損ないのマイク・タイソンのようにぐいぐいと敵の懐に入ろうとする。ダイビングスーツが利き手の右ストレートを連発する。当たれば倒れる。そう確信した打ち方だった。
調整不足のボディビルダーのようなサモア人が必殺の右をスイスイと避けて、オーバーハンドの右フックを打ち込む。拳は白人の鼻先を直撃し、金網に巨体を叩きつけた。
「ダウン!」
レフリーの声とともに沸き立つ観客。歓声と悲鳴が入り混じっている。
ダイビングスーツが鼻血をボタボタと垂らしながら立ち上がった。血が滴って、虫かごの中に血の水たまりを作っていた。
「ファイト!」
レフリーが叫ぶと、ダイビングスーツはサモア人に組み付いた。首根っこを押さえながら、アッパーを連発する。ボクシングなら完全に反則。だが、無法地帯のリングでは紳士協定どころか常識的なルールすらまともに適用されそうになかった。
押さえつけられたサモア人が出血したのか、組み付いた二人の間にボタボタと血が垂れる。
このままダイビングスーツが逆転するのかと見ていると、サモア人が強引に両手を使って白人の胸を押した。僅かな空間が出来る。
その刹那、サモア人の右フックが一閃する。轟音。ダイビングスーツが吹っ飛ばされて、金網に背中を打ちつけて倒れた。
もう一人は全身がタトゥーに覆われた白人。刺青の面積が多すぎて、センスの悪いダイビングスーツを着ているみたいだった。
双方とも眼は血走っている。薬でもキメているのかもしれない。そこには明白な殺意があった。
レフリーとおぼしき男。昔のヤングジャンプにでも出てきそうなリーゼントだった。試合開始前からおっぱじめようとする二人を制して、金網の両端へ行くよう指示を与える。
狂った歓喜。過剰な興奮。下手な興行を遥かに凌駕する熱量の中、ゴングが鳴らされた。
素手――最初に目に付いたのは、剥き出しの拳だった。
昨今の格闘技では、せめてオープンフィンガーグローブを付けるのが常識だ。それですら「これで人間を殴っていいのか」という疑問さえある。
だが、画面に映る荒くれ者達は素手で殴り合いを始めた。殴った者勝ちとでも言わんばかりに、機先を制して先にパンチを当てようとしている。
サモア人が身体を振る。出来損ないのマイク・タイソンのようにぐいぐいと敵の懐に入ろうとする。ダイビングスーツが利き手の右ストレートを連発する。当たれば倒れる。そう確信した打ち方だった。
調整不足のボディビルダーのようなサモア人が必殺の右をスイスイと避けて、オーバーハンドの右フックを打ち込む。拳は白人の鼻先を直撃し、金網に巨体を叩きつけた。
「ダウン!」
レフリーの声とともに沸き立つ観客。歓声と悲鳴が入り混じっている。
ダイビングスーツが鼻血をボタボタと垂らしながら立ち上がった。血が滴って、虫かごの中に血の水たまりを作っていた。
「ファイト!」
レフリーが叫ぶと、ダイビングスーツはサモア人に組み付いた。首根っこを押さえながら、アッパーを連発する。ボクシングなら完全に反則。だが、無法地帯のリングでは紳士協定どころか常識的なルールすらまともに適用されそうになかった。
押さえつけられたサモア人が出血したのか、組み付いた二人の間にボタボタと血が垂れる。
このままダイビングスーツが逆転するのかと見ていると、サモア人が強引に両手を使って白人の胸を押した。僅かな空間が出来る。
その刹那、サモア人の右フックが一閃する。轟音。ダイビングスーツが吹っ飛ばされて、金網に背中を打ちつけて倒れた。
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