現在自著を執筆しつつ、他のKDP作家の作品を読んでいるのですが、いや~みなさんレベルが高いですね。あっちからこっちからすげえ作品がボンボン出てきます。
先日の
「エンジェル」に続き、今日は
牛野小雪氏の
「グッドライフ高崎望」をご紹介します。
牛野さん自身が「自分史上最高の力み作」と認めた本作は、前作の
「蒲生田岬~夕方午後五時の彼氏~」を超える大作になりました。

作品の内容を大雑把に説明すると、不登校の中学生→ツッパリ漫画を思わせる主人公の不器用な生き様を、牛野小雪氏の独特なタッチで描く高校青春ストーリーというところでしょうか。
ストーリーは主人公である
高崎望の中学生時代から始まります。ある日、望君自身も原因が分からない、謎の登校拒否生活が始まります。なんとか持ち直し、不安を抱きながら高校へ進学した望君は、男が惚れる男と形容するに相応しい
井上さんと出会います。井上さんは強くて頼りがいがあり、
リーゼントが特徴の番長的存在でした。
ある日、望君は井上さんの不在時に不良のカツアゲにあってボコボコにされてしまいます。これは男性なら分かるかと思いますが、友人知人に自分がボコボコにされた上に金を取られたなんて告白するのはつらいものです。警察にも相手にしてもらえなかった望君は、自分の身は自分で守るしかないと悟り、
ある日突然リーゼントヘアーに!周囲は驚きますが、基本的な人格は変わらぬまま、望君はリーゼントヘアーの真面目な生徒として、学校生活を送ります。また、己を強くして不良達を倒してやろうと腕立て千回を目指して筋トレに励みます。なんとなくですが、暴走族の集会に英単語帳を持参して、周囲から「変態」と言われていた若りし日の
YOSHIKI(X JAPAN)を思い出しますね(笑)。
本作
はつんどく速報でも紹介されましたので、一年~三年の流れは割愛して、独自の視点から感想を書きたいと思います。
今作で私の牛野小雪氏に対するイメージは大きく変わりました。
夏目漱石を私淑しているという氏は、どちらかと言うと純文学っぽさやミステリーのテイストが強い作家だと思っていました。ですが、今作では独特なタッチでのアクション・バトルを描ける事を証明しました。
個人的に漫画喫茶で
ろくでなしブルースを読みまくっていた時期があったので、そんな思い出が蘇ってきましたよ。
あえて大胆に予想してみますが、本作は
牛野小雪氏の自伝の趣が強いのでは? と思っています。というのも、
不器用な男のあるあるエピソードが異常にリアルなんですよね(笑)。一見平坦な展開にみえる部分でも、Wボケみたいな会話があったりして、思わず笑ってしまった会話も多々ありました。特に後輩の
祐介なんかは、誰もが人生で一度は遭遇しているアホな後輩で、彼と望君との間で交わされるツッコミ所満載のシュールな会話が、滔々と流れる川のように展開されていく様はニヤつきが止まりませんでした(笑)。
他にも思いを寄せる同級生である
愛梨(あいり)と何を話していいか分からず、どうでもいい話を連発しては自己嫌悪に陥っていく様は、誰もが
「分かるよ」と言いたくなったのではないでしょうか?
今作で表立って書かれてはいませんが、読者が
「こいつは昔の俺か?」と思うようなストーリーが多々見られ、三人称視点で書かれているにも関わらず、
読者は気付けば作品の中を歩いているわけです。
ところで、牛野氏は拙著
「紅い雨、晴れてのち虹」の書評で、男を通す主人公の杉原に「どうせなら死んでほしかった」と語っています。
ですから、愛梨が外道高校の不良に拉致されて人質となり、望がある選択を迫られた時は本当にハラハラして読み進めたのですが……。その先はぜひ読者の方々がご自分の目で確かめて下さい。
「火星へ行こう君の夢がそこにある」でも見られた傾向ですが、
氏は半ば確信犯的に読者の気になる部分を書かないのです。換言すれば、
謎の残し方が絶妙なんですね。
読者には「あの人はどうなったんだ?」とか「これから彼はどうするのだろう?」という疑問を残しつつ、大胆に余韻を残してストーリーは終結します。
狙ったのか天然なのかは分かりませんが、この効果で
読者はますます望君の人生を自分の青春時代と重ねて読んでしまうのです。胸の奥にしまっておいた、セピア色の思い出とともにね。
とにかく、氏の作品では最高傑作だと思います。これは単なるツッパリハイスクールロケンローな作品ではありません。
人によっては昔を思い出して泣いてしまうかもしれません。
あなたに忘れかけていた熱い気持ちと、青春時代ならではの甘酸っぱさ、懊悩、本当にたくさんの思い出を呼び起こしてくれます。
不器用すぎる男が歩む真面目男道青春ストーリー、ぜひその魂で感じてください。
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