蛍火
- 2018/12/20
- 17:00
ヌヌヌイこれはまずい事になりました。
壁にへばりついた女の死体を見て、私は嫌な汗をかいています。
話せば長くなりますが、先日に悪名高いコウドウ=カイの肉体を乗っ取ったわたくしは、王のもとへ勇者として名乗りを上げ、前回よりも多額の支援金をもらって帰って来ました。魔物が人間の味方になったというのもあり、王の期待も大きかったのだと思います。
ですが、私は懲りもせずにまた売春宿に通うというダメ人間の螺旋階段を下っていきました。
前回よりも多額の金を持ってましたから、わたくしは念願叶って酒池肉林の毎日を過ごしておりましたが、やはり豪遊とともに金は風呂桶の水のように無くなり、「てめえふざけんなよ」と言って平手打ちをしてきた巻き毛のマリアにかっとなり、思わず殴りつけたら壁に張り付いて落ちてこないほど死体損壊の激しい殺し方をしてしまい、この売春宿からどうやって逃げ出そうかと考えている最中でございます。
しかし人間の死体でもとてつもない力で壁に叩きつければあんな風にビローンって伸びるんですねえ……って感心している場合ではありません。
巻き毛のマリアを二度と抱けないのも残念ではありますが、それ以上に殺人という大罪を犯した立場上、見つかれば捕縛→死刑のパターンが待っているに違いありません。それはなんとしても避けないといけない事態です。
さて、どうやって逃亡するかと考えていますと、扉をノックする音がします。
「何があった? 返事をしろ!」
オーマイ……マリアをぶん殴った音が外にも聞こえていたようで、刺青だらけのお兄さん達がドアを蹴り破って部屋まで踏み込んできました。
部屋に突入して来たお兄さん達は私の横を通り抜けると、壁に虎のカーペットのように張り付いた元マリアを見て、フリーズしました。目の前の光景が理解出来なかったのだと思います。
ですが、彼らが一瞬棒立ちになっている間に、私の中ではある覚悟が決まりました。
「ひでぶ!」
背を向けてまったくの無防備だった男を、全力で殴りつけました。その男は紅いカーペットのように壁へと貼り付きました。
「はっ……?」
目の前で仲間がホオジロザメに喰われたように、他の男達はフリーズしました。彼らも一瞬で出来た隙の内に、次々と人外の力で壁に貼り付けられました。
もうやけくそでございます。
私は今、英雄ではなく修羅の道を行く事を決めました。
自分のいた部屋にたっぷりと油を撒くと、火を放って逃げました。あっという間に遠くの丘に逃げると、夜の闇にほのかな光を放つたいまつのような光が見えました。あの調子だと売春宿は全焼でしょう。
まあ、結果としてはダメ人間を脱出する手立てとしては良かったのかもしれません。彼らの犠牲は神によって受け止められるでしょう。
君達の死は無駄にしないよ。
遠くから蛍のような光を眺めて、わたくしは彼らの鎮魂を祈りました。
壁にへばりついた女の死体を見て、私は嫌な汗をかいています。
話せば長くなりますが、先日に悪名高いコウドウ=カイの肉体を乗っ取ったわたくしは、王のもとへ勇者として名乗りを上げ、前回よりも多額の支援金をもらって帰って来ました。魔物が人間の味方になったというのもあり、王の期待も大きかったのだと思います。
ですが、私は懲りもせずにまた売春宿に通うというダメ人間の螺旋階段を下っていきました。
前回よりも多額の金を持ってましたから、わたくしは念願叶って酒池肉林の毎日を過ごしておりましたが、やはり豪遊とともに金は風呂桶の水のように無くなり、「てめえふざけんなよ」と言って平手打ちをしてきた巻き毛のマリアにかっとなり、思わず殴りつけたら壁に張り付いて落ちてこないほど死体損壊の激しい殺し方をしてしまい、この売春宿からどうやって逃げ出そうかと考えている最中でございます。
しかし人間の死体でもとてつもない力で壁に叩きつければあんな風にビローンって伸びるんですねえ……って感心している場合ではありません。
巻き毛のマリアを二度と抱けないのも残念ではありますが、それ以上に殺人という大罪を犯した立場上、見つかれば捕縛→死刑のパターンが待っているに違いありません。それはなんとしても避けないといけない事態です。
さて、どうやって逃亡するかと考えていますと、扉をノックする音がします。
「何があった? 返事をしろ!」
オーマイ……マリアをぶん殴った音が外にも聞こえていたようで、刺青だらけのお兄さん達がドアを蹴り破って部屋まで踏み込んできました。
部屋に突入して来たお兄さん達は私の横を通り抜けると、壁に虎のカーペットのように張り付いた元マリアを見て、フリーズしました。目の前の光景が理解出来なかったのだと思います。
ですが、彼らが一瞬棒立ちになっている間に、私の中ではある覚悟が決まりました。
「ひでぶ!」
背を向けてまったくの無防備だった男を、全力で殴りつけました。その男は紅いカーペットのように壁へと貼り付きました。
「はっ……?」
目の前で仲間がホオジロザメに喰われたように、他の男達はフリーズしました。彼らも一瞬で出来た隙の内に、次々と人外の力で壁に貼り付けられました。
もうやけくそでございます。
私は今、英雄ではなく修羅の道を行く事を決めました。
自分のいた部屋にたっぷりと油を撒くと、火を放って逃げました。あっという間に遠くの丘に逃げると、夜の闇にほのかな光を放つたいまつのような光が見えました。あの調子だと売春宿は全焼でしょう。
まあ、結果としてはダメ人間を脱出する手立てとしては良かったのかもしれません。彼らの犠牲は神によって受け止められるでしょう。
君達の死は無駄にしないよ。
遠くから蛍のような光を眺めて、わたくしは彼らの鎮魂を祈りました。
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