いのちをだいじに
- 2018/12/18
- 17:00
酒をかっくらいながら賞金首の魔物を退治しに行く時の気分は、無一文になった人間に似合わず爽快でございました。
やはり人間、仕事というものを持った方が幸せなのかもしれません。
これから魔物を退治するのは明らかに生活費を稼ぐためではございますが、それによって近隣に平和がもたらされるのかと思うと、私のやっている討伐という仕事も誇れるものなのかもしれません。
町を出てしばらく歩くと、向こうの方に図体のでかい男が立っているのが見えました。以前のわたくしでしたら「階級が違う」とか言って対戦を避けていたでしょうが、今のわたくしは筋肉ダルマを乗っ取ったスーパーマンでございます。
この手に握るハンマーも、近代格闘技の素養に裏打ちされたわたくしに振るわれた方がより威力があるに決まっています。
と、噂のコウドウ=カイなる魔物の姿が近くなってきましたので、私は手に持った酒樽を捨てると、「てめえがコウドウ=カイか」と、昔懐かしいチンピラのようにからんでいきました。
ですが、次第にわたくしの酔いは醒めてゆきました。
というのも、ただのでかい男だと思っていたお尋ね者は、どう見てもアナボリックステロイドの過剰摂取をしたようにしか見えないぶっとい腕をぶら下げていて、上腕二等筋の表面にはヒルを埋め込んだような太い血管がうごめいておりました。頭蓋骨にはとんがりコーンをドーピングさせたようなツノが生えており、これで頭突きをされたら脳漿をばらまいて死ぬに違いありません。
ヌヌヌイこれはまた死亡フラグなんじゃねーかと思いましたが、残念な事にもう喧嘩を売ってしまいました。今さら取り下げる事は出来ません。
コウドウ=カイは不機嫌そうに「そうじゃ。なんじゃ貴様は?」と言ってくるので、えいどうにでもなれと、「貴様の首をいただきに来た」と申し上げました。
すると間もなく「やってみろや」と、広島出身の世界チャンピオンのような口をきくものですから、わたくしたまったものではありません。
まあいい。こちらには武器があるさ。
卑怯者まっしぐらのような独白ではございますが、私はなんとか自分を落ち着かせようとしていました。
そうです。殺し合いに卑怯もクソもございません。
果し合いは基本勝った方が正義なのであり、歴史だって勝った者によって書かれるものです。それを考えたら、丸腰の相手に武器を使う事などなんでもありません。私が草原で出会った魔物だって、丸腰のわたくしに棍棒を振るったではありませんか。
ですから無防備な相手にハンマーを打ち下ろすのなんて苦でも何でもありませんでした。後は開き直りの問題でございます。
「死ねうらあああ!」と全力でハンマーを振ったところ目の前には信じられない光景が映りました。
渾身の一撃を放ったつもりではありましたが、コウドウ=カイは信じられないほど華麗なバックステップでそれを外すと、即座にステップインして鬼のように速い右ストレートを放ってきました。
反則じゃね……。
そう思った時はすでに遅く、無防備になったわたくしの顎にはバキでしか見られないような腕で放たれる拳がめり込みました。
嗚呼、この世界はどこまで私に屈辱を与えれば気が済むのでしょう?
拳が顎を割り、歯をへし折り、そして脳の血管がブチブチと切れるのが分かりました。
――チイト、失格。
私の脳裏には、意味も無くそのような言葉が過ぎりました。
そして、間もなく視界はまた黒く閉ざされました。
おそらくは、永遠に。
やはり人間、仕事というものを持った方が幸せなのかもしれません。
これから魔物を退治するのは明らかに生活費を稼ぐためではございますが、それによって近隣に平和がもたらされるのかと思うと、私のやっている討伐という仕事も誇れるものなのかもしれません。
町を出てしばらく歩くと、向こうの方に図体のでかい男が立っているのが見えました。以前のわたくしでしたら「階級が違う」とか言って対戦を避けていたでしょうが、今のわたくしは筋肉ダルマを乗っ取ったスーパーマンでございます。
この手に握るハンマーも、近代格闘技の素養に裏打ちされたわたくしに振るわれた方がより威力があるに決まっています。
と、噂のコウドウ=カイなる魔物の姿が近くなってきましたので、私は手に持った酒樽を捨てると、「てめえがコウドウ=カイか」と、昔懐かしいチンピラのようにからんでいきました。
ですが、次第にわたくしの酔いは醒めてゆきました。
というのも、ただのでかい男だと思っていたお尋ね者は、どう見てもアナボリックステロイドの過剰摂取をしたようにしか見えないぶっとい腕をぶら下げていて、上腕二等筋の表面にはヒルを埋め込んだような太い血管がうごめいておりました。頭蓋骨にはとんがりコーンをドーピングさせたようなツノが生えており、これで頭突きをされたら脳漿をばらまいて死ぬに違いありません。
ヌヌヌイこれはまた死亡フラグなんじゃねーかと思いましたが、残念な事にもう喧嘩を売ってしまいました。今さら取り下げる事は出来ません。
コウドウ=カイは不機嫌そうに「そうじゃ。なんじゃ貴様は?」と言ってくるので、えいどうにでもなれと、「貴様の首をいただきに来た」と申し上げました。
すると間もなく「やってみろや」と、広島出身の世界チャンピオンのような口をきくものですから、わたくしたまったものではありません。
まあいい。こちらには武器があるさ。
卑怯者まっしぐらのような独白ではございますが、私はなんとか自分を落ち着かせようとしていました。
そうです。殺し合いに卑怯もクソもございません。
果し合いは基本勝った方が正義なのであり、歴史だって勝った者によって書かれるものです。それを考えたら、丸腰の相手に武器を使う事などなんでもありません。私が草原で出会った魔物だって、丸腰のわたくしに棍棒を振るったではありませんか。
ですから無防備な相手にハンマーを打ち下ろすのなんて苦でも何でもありませんでした。後は開き直りの問題でございます。
「死ねうらあああ!」と全力でハンマーを振ったところ目の前には信じられない光景が映りました。
渾身の一撃を放ったつもりではありましたが、コウドウ=カイは信じられないほど華麗なバックステップでそれを外すと、即座にステップインして鬼のように速い右ストレートを放ってきました。
反則じゃね……。
そう思った時はすでに遅く、無防備になったわたくしの顎にはバキでしか見られないような腕で放たれる拳がめり込みました。
嗚呼、この世界はどこまで私に屈辱を与えれば気が済むのでしょう?
拳が顎を割り、歯をへし折り、そして脳の血管がブチブチと切れるのが分かりました。
――チイト、失格。
私の脳裏には、意味も無くそのような言葉が過ぎりました。
そして、間もなく視界はまた黒く閉ざされました。
おそらくは、永遠に。
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