ダルマの罠
- 2018/12/03
- 17:00
ようやく勇者の選考会に出場する事が出来ます。
城の中をズイズイと歩いて行くと、なかなか金目のものがありそうな気がしたので、密かに持ち帰っても大丈夫そうな壷が無いかと探してみました。持っているだけで幸せになれる王の壷とか言って、町で売り捌いてやろうかと思います。
ですが私のような人間が出てくるのはお見通しだったのか、嘘くさいメッキのかかった鎧のレプリカぐらいしか高価そうな物は無く、売りさばいたら売りさばいたですぐに足のつきそうな代物ばかりです。こちらの世界でも盗むのは現金だけにしておいた方が良さそうでございます。
無駄に広く、ザルな警備で護られた城内を歩き回ると、ようやく中庭のあたりでそれらしき光景に出会えました。
玉座に座った偉そうなオッサンが、ドーピング疑惑のわきそうな筋肉ダルマの話をつまらなそうに聞いています。
ヌヌヌイこれがこの世界の王とやらに違いありません。
王の傍らには、姫らしき淑女が座っていましたが、これといって美人でもなければ、笑えるようなブスでもありませんでした。まあ、世の中こんなものなのかもしれません。
つい先日にはバケモノに殺されかけましたが、どうせ人間の方は弱いに決まっています。というか、そういう設定でない異世界モノを読んだ事がありません。
さっそく筋肉ダルマの自己アピール中に「わたくし異国から参りました勇者でございます」と申しますと、王と筋肉ダルマが面倒そうな顔でこちらを見ました。
王はしばらく虚空を見つめると、「じゃ、とりあえずこいつを殺してみれば」と投げやりに言いました。
素晴らしい。これは私がヒーロー的に筋肉ダルマを一刀両断し、華々しい異世界デビューを飾るフラグではありませんか。
そのように思ったわたくしは、「いざ、尋常に勝負」と、サムライス○リッツのように剣を抜きました。抜いてから、ボクサーだったのだからどう考えても拳で闘った方が良いのではなかろうかとは思いましたが、もはや引っ込みがつきません。
私はなぜかこのマッチョメンと武器で闘う事に相成りました。
身体を斜めに構えて、いつでも踏み込めるよう、ヒザから下をリラックスさせて、水面を這うアメンボのようにすり足で相手に近付いていきます。
一瞬突きのような動きを見せると、筋肉ダルマは迎え撃つ要領でハンマーを打ち下ろしました。
しかしこれはわたくしの張った罠でございました。
相手の一撃を誘い込んだ私は、ハンマーの一撃をバックステップでかわすと、すぐに前にステップインし、美しき牙突……もとい、突きを筋肉ダルマの喉笛に放ちました。
存外にこの世界はチョロいかもしれないと、自分の勝利を確信していたその時でございました。
筋肉ダルマの眼が光、何か詠唱めいた言葉が唱えられました。
その刹那、私の立っていた地面がふいに盛り上がって、私の身体を勢いよく宙に放り出したのです。
嗚呼、忘れておりました。
仮に異世界で魔法が使えるなら、それは敵も同じ可能性があるという事を。
私は魔法にやられた阿呆でございます。
無防備になった空中で、巨大なハンマーが眼前に迫って来るのが見えて、それから目の前が真っ暗になりました。
現世に嫌気が差したからといって、異世界に逃げれば良いというものでもないようです。
私はようやくそれを学びました。
あの世でも殺されるなんて、わたくしも稀有な体験をしているのかもしれません。
城の中をズイズイと歩いて行くと、なかなか金目のものがありそうな気がしたので、密かに持ち帰っても大丈夫そうな壷が無いかと探してみました。持っているだけで幸せになれる王の壷とか言って、町で売り捌いてやろうかと思います。
ですが私のような人間が出てくるのはお見通しだったのか、嘘くさいメッキのかかった鎧のレプリカぐらいしか高価そうな物は無く、売りさばいたら売りさばいたですぐに足のつきそうな代物ばかりです。こちらの世界でも盗むのは現金だけにしておいた方が良さそうでございます。
無駄に広く、ザルな警備で護られた城内を歩き回ると、ようやく中庭のあたりでそれらしき光景に出会えました。
玉座に座った偉そうなオッサンが、ドーピング疑惑のわきそうな筋肉ダルマの話をつまらなそうに聞いています。
ヌヌヌイこれがこの世界の王とやらに違いありません。
王の傍らには、姫らしき淑女が座っていましたが、これといって美人でもなければ、笑えるようなブスでもありませんでした。まあ、世の中こんなものなのかもしれません。
つい先日にはバケモノに殺されかけましたが、どうせ人間の方は弱いに決まっています。というか、そういう設定でない異世界モノを読んだ事がありません。
さっそく筋肉ダルマの自己アピール中に「わたくし異国から参りました勇者でございます」と申しますと、王と筋肉ダルマが面倒そうな顔でこちらを見ました。
王はしばらく虚空を見つめると、「じゃ、とりあえずこいつを殺してみれば」と投げやりに言いました。
素晴らしい。これは私がヒーロー的に筋肉ダルマを一刀両断し、華々しい異世界デビューを飾るフラグではありませんか。
そのように思ったわたくしは、「いざ、尋常に勝負」と、サムライス○リッツのように剣を抜きました。抜いてから、ボクサーだったのだからどう考えても拳で闘った方が良いのではなかろうかとは思いましたが、もはや引っ込みがつきません。
私はなぜかこのマッチョメンと武器で闘う事に相成りました。
身体を斜めに構えて、いつでも踏み込めるよう、ヒザから下をリラックスさせて、水面を這うアメンボのようにすり足で相手に近付いていきます。
一瞬突きのような動きを見せると、筋肉ダルマは迎え撃つ要領でハンマーを打ち下ろしました。
しかしこれはわたくしの張った罠でございました。
相手の一撃を誘い込んだ私は、ハンマーの一撃をバックステップでかわすと、すぐに前にステップインし、美しき牙突……もとい、突きを筋肉ダルマの喉笛に放ちました。
存外にこの世界はチョロいかもしれないと、自分の勝利を確信していたその時でございました。
筋肉ダルマの眼が光、何か詠唱めいた言葉が唱えられました。
その刹那、私の立っていた地面がふいに盛り上がって、私の身体を勢いよく宙に放り出したのです。
嗚呼、忘れておりました。
仮に異世界で魔法が使えるなら、それは敵も同じ可能性があるという事を。
私は魔法にやられた阿呆でございます。
無防備になった空中で、巨大なハンマーが眼前に迫って来るのが見えて、それから目の前が真っ暗になりました。
現世に嫌気が差したからといって、異世界に逃げれば良いというものでもないようです。
私はようやくそれを学びました。
あの世でも殺されるなんて、わたくしも稀有な体験をしているのかもしれません。
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