ホームレス、マーシレス

　しばらく宿屋にいましたが、そのうち出て行けと追い出されました。宿賃は医者が立て替えていて、それも請求に入っていました。こちらのお金の単位はカウパーというようで、日本円とほぼ同じ価値のようです。

　宿賃は一日につき三〇〇〇カウパーと記載されていましたから、私がいた世界ではそのまま三〇〇〇円ぐらいになるのでしょうか。東○インよりも安い価格という事になります。

　ですが、負傷して何日も泊まっていながら、職も無く身よりも無い人間のようだと分かると、宿屋の主人の扱いも非常に雑になってきました。

　チート系ラノベだとここでかわいい娘が出てくるのが定番かと思いますが、やって来た女性の給仕はドクターマシリトに似ていました。このままでは、こちらの世界ですら生きる希望を失ってしまいそうな気がいたします。そう思っていた矢先に、「医師が立て替えた宿代が切れたから出て行け」と言われました。私が逆の立場でもそう言ったでしょう。

　嗚呼、チートどころかこの世界ですらニートにしかなれないというか、そもそも家がありません。いきなり殺されかけてホームレスなんて、運命の神とやらもちとイタズラが過ぎるのではありませんか？

　この世というのか、あの世というのか、ともかく私の元いた世界は無常でございました。こちらの世界くらい、もう少しぐらい生ぬるくてもいいではありませんか。

　全身が、痛いです。

　私はまだあのバケモノに負わされた傷が癒えておりません。

　嗚呼、誰か私に安心出来る家庭を下さい。

　魔王討伐なんて言わずに、真面目に働いて無難に一生を終えますから……。