遺書

　そうだ、異世界へ行こう。
　ふいにそのような思いが脳裏を過ぎりました。

　別に何かが厭になったというわけでもなく、ただただ現世というものに飽き飽きしてしまったのだと思います。

　拳（けん）と模倣に耽溺していた私は、剣と魔法の世界にはとても疎いのですけれど、なんでもこの世で死を迎えた人間というのは、別の世界で途轍もない力を得て好き放題出来るのだと聞きます。

　どうせこのまま生きていてもつまらないばかりですし、私も異世界へと旅立とうかと思います。
　遺書、というよりは置き手紙になるのでしょうか？

　なにぶん残された者達は混乱するでしょうから、私が旅立つ理由くらいは書き残しておこうかと思います。

　私はしばらく旅に出る事にします。
　戻って来る頃には、この手紙を読んだ方達は次の人生を歩んでいるかもしれませんね。

　それではご機嫌よう。

　通勤列車に飛び込んで、職場ではないどこかへと旅立とうかと思います。