さっきまで上司だった人の方が俺よりも遥かに詩人だった
- 2017/10/01
- 01:38
「知らぬ間に65歳になっちゃった」
つい2秒前まで上司だった人が笑った。少し、寂しそうに。
その人はキャリアが終焉を迎える一秒前まで、生真面目にデスクで仕事をしていた。彼は最後の最後までプロだった。
周囲の同僚が別れを惜しみ、握手を求めていた。
「君も頑張れよ。65歳なんてあっと言う間なんだから」
その人は立ち尽くす俺にそう言った。
俺はただ「はい」と答えることしか出来なかった。
物書きなんだからこういう時ぐらい洒落た言葉でも送れたらよかったのかもしれないが、それを考えつくには冒頭の一言があまりにも完璧過ぎたのだ。
あんな一言を言われたら、プロの法螺吹きはもう太刀打ちが出来ない。どんな美辞麗句でその場を取り繕っても、それはただ陳腐な表現になる。あまりにも言葉の重みが違い過ぎるからだ。
さっきまで上司だった人はいつも通り廊下を渡り、エレベーターに乗っていった。そしていつものように手を振って帰ろうとしている。いつもと違うのは他の人達だけだった。
「ありがとうございました」
ここ最近で一番純度の高い言葉だったのだと思う。
手垢のついた言葉だとか、そんなことはあまり関係なく、大事なのは誰かの心に響くことだった。そんな簡単なことにも気付けていないあたり、俺が三流でい続けるのも納得出来る。
答えはいつでも目の前に転がっていたのに、ずっと見落としていた。
さて、彼の言う通り、気付いたら65歳なんてすぐなのだろう。
その時に俺の言葉はどれだけ響くのかな?
物書きでも何でもない上司……だった人は、俺達の心に足跡を残していった。
確実に、残していった。
それは石版のように、ずっとこの胸に刻みつけられている。
つい2秒前まで上司だった人が笑った。少し、寂しそうに。
その人はキャリアが終焉を迎える一秒前まで、生真面目にデスクで仕事をしていた。彼は最後の最後までプロだった。
周囲の同僚が別れを惜しみ、握手を求めていた。
「君も頑張れよ。65歳なんてあっと言う間なんだから」
その人は立ち尽くす俺にそう言った。
俺はただ「はい」と答えることしか出来なかった。
物書きなんだからこういう時ぐらい洒落た言葉でも送れたらよかったのかもしれないが、それを考えつくには冒頭の一言があまりにも完璧過ぎたのだ。
あんな一言を言われたら、プロの法螺吹きはもう太刀打ちが出来ない。どんな美辞麗句でその場を取り繕っても、それはただ陳腐な表現になる。あまりにも言葉の重みが違い過ぎるからだ。
さっきまで上司だった人はいつも通り廊下を渡り、エレベーターに乗っていった。そしていつものように手を振って帰ろうとしている。いつもと違うのは他の人達だけだった。
「ありがとうございました」
ここ最近で一番純度の高い言葉だったのだと思う。
手垢のついた言葉だとか、そんなことはあまり関係なく、大事なのは誰かの心に響くことだった。そんな簡単なことにも気付けていないあたり、俺が三流でい続けるのも納得出来る。
答えはいつでも目の前に転がっていたのに、ずっと見落としていた。
さて、彼の言う通り、気付いたら65歳なんてすぐなのだろう。
その時に俺の言葉はどれだけ響くのかな?
物書きでも何でもない上司……だった人は、俺達の心に足跡を残していった。
確実に、残していった。
それは石版のように、ずっとこの胸に刻みつけられている。
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