新作の断片
- 2017/06/20
- 17:00
また腹が減りました。
先日に屈強な男達を胃に収めたというのに、まだまだこの飢餓感は消えそうにありません。私達はどこまでも腹が減っていて、生き残った人間を食い尽くしてはまた仲間を増やしてさらなる飢餓に苦しむのです。
また死人全体が不機嫌になりました。原因は単に空腹です。ちょっとした事で争いごとが起こり、他死人に突っかかっては噛み殺したり、反対に掴みかかったはずみに腕が腐り落ちてしまう惨事が多発しています。所詮は本能に突き動かされているだけの存在。食べ物を分け合うという感覚はとうの昔に無くしました。
やはり栄養素が無くなると肉体の維持は難しくなるようです。炭水化物やらタンパク質やらが欠如した私の顔は崩れてきました。そのうち脳ミソもズルリと落ちて、前触れも無く楽になれる日がやって来るのかもしれません。
栄養不足で顔が崩れだしていたのは私だけではありませんでした。私が姉達の名前で呼んでいる死人達もずいぶんとひどい見た目になってきました。髪は腐って所々抜け落ち、溶けて避けた口元には剥き出しになった歯が飛び出ていました。これで獲物に喰らいついたらさらに崩れてひどい乱杭歯をこじらせていくのでしょう。勝手に思い入れをしておきながら、容姿の衰えていく異性をがっかりした目で見ていました。
いつかに何のために生きているかは分からないと思い、そのまま一人の女性と情死した事を憶えています。これでやっと楽になれたのだと思っていたら、今度は死人としての生活が始まりました。いや、死活と言った方が正しいのでしょうか。
私はいまだに全てを終わらせたくてたまりません。ですが、次は霊魂として憂鬱な毎日を過ごすのではないかと危惧しています。なにせ地獄というものは底を知りません。落ちようと思えばどこまでも落ちる事が出来るのです。
だからこの生活と呼んでいいか死活と呼んでいいか分からない時間も、これ以上憂鬱な空間と時間にとらわれないようなんとか生きているだけなのです。嗚呼、なぜ神は私という存在を生み出したのでしょう。ここまで憂鬱な人生を送らせて楽しむというのは、いくらなんでも趣味が悪すぎるというものです。
そんな事を思っていても、私の口からは所詮「うう」だの「ああ」だのしか言葉が出てこないのです。いつまでも続くこの憂鬱地獄。この無限に続く地獄をどうしたら良いものかと今も悩みながら生きているのです。
私の憂鬱さなどつゆ知らず、また他の仲間が人間の匂いを嗅ぎ付けたようです。久方ぶりに食べ物の匂いを嗅いだせいか、みんなひどく殺気立っています。最近は本当に食料も少なくなったので、氷の大地に倒れたまま動かなくなる仲間も増えてきました。早く彼らの仲間入りをして楽になりたいところですが、あいにく死人の本能がそうさせてくれません。
最近になると、すっかり死人の数が人間を凌駕しています。それはそうです。こちらはワンサイドの将棋のように数を増やし、加速度的に減りゆく人間をさらに凄まじい勢いで減らしていくのですから。
そろそろ食料となる生身の人間がいなくなるのかもしれません。あまりに乱獲し過ぎてきましたから、個体数そのものが本当に少なくなっています。養殖のように高速で生ませて増やすという事も出来ませんから、そろそろウイルスが隆盛を誇り過ぎて宿主ごと殺してしまうあたりにいるのだと思います。まあどうでもいい事です。いよいよそうなれば私も安らかに眠れるという事ですから。
そんな事を思いながら雪の積もる廃墟をヒタヒタと歩いて行きました。他の死人はまだ私よりも生きようという意欲があるのか、どこか勇ましく見えます。
無気力に歩いて行くと、たしかに人間の匂いが近くから漂って来ました。どうやら無効にあるコンクリート製の廃屋から来ているようです。私達はまた血を求めて歩いて行きました。
死人に作戦などありません。ただただ地味に歩いていくだけです。積もった雪の中をシャリシャリと踏みしめながら、獲物がいると思しき廃屋を目指していきます。
その刹那、轟音が白い静寂を破りました。
振り返ると、仲間が爆風とともに空高く舞い上がっていました。四肢はもげ、黒くなった内臓がバラバラと降ってきました。
どうやら人間のかけた罠に嵌まったようです。
先日に屈強な男達を胃に収めたというのに、まだまだこの飢餓感は消えそうにありません。私達はどこまでも腹が減っていて、生き残った人間を食い尽くしてはまた仲間を増やしてさらなる飢餓に苦しむのです。
また死人全体が不機嫌になりました。原因は単に空腹です。ちょっとした事で争いごとが起こり、他死人に突っかかっては噛み殺したり、反対に掴みかかったはずみに腕が腐り落ちてしまう惨事が多発しています。所詮は本能に突き動かされているだけの存在。食べ物を分け合うという感覚はとうの昔に無くしました。
やはり栄養素が無くなると肉体の維持は難しくなるようです。炭水化物やらタンパク質やらが欠如した私の顔は崩れてきました。そのうち脳ミソもズルリと落ちて、前触れも無く楽になれる日がやって来るのかもしれません。
栄養不足で顔が崩れだしていたのは私だけではありませんでした。私が姉達の名前で呼んでいる死人達もずいぶんとひどい見た目になってきました。髪は腐って所々抜け落ち、溶けて避けた口元には剥き出しになった歯が飛び出ていました。これで獲物に喰らいついたらさらに崩れてひどい乱杭歯をこじらせていくのでしょう。勝手に思い入れをしておきながら、容姿の衰えていく異性をがっかりした目で見ていました。
いつかに何のために生きているかは分からないと思い、そのまま一人の女性と情死した事を憶えています。これでやっと楽になれたのだと思っていたら、今度は死人としての生活が始まりました。いや、死活と言った方が正しいのでしょうか。
私はいまだに全てを終わらせたくてたまりません。ですが、次は霊魂として憂鬱な毎日を過ごすのではないかと危惧しています。なにせ地獄というものは底を知りません。落ちようと思えばどこまでも落ちる事が出来るのです。
だからこの生活と呼んでいいか死活と呼んでいいか分からない時間も、これ以上憂鬱な空間と時間にとらわれないようなんとか生きているだけなのです。嗚呼、なぜ神は私という存在を生み出したのでしょう。ここまで憂鬱な人生を送らせて楽しむというのは、いくらなんでも趣味が悪すぎるというものです。
そんな事を思っていても、私の口からは所詮「うう」だの「ああ」だのしか言葉が出てこないのです。いつまでも続くこの憂鬱地獄。この無限に続く地獄をどうしたら良いものかと今も悩みながら生きているのです。
私の憂鬱さなどつゆ知らず、また他の仲間が人間の匂いを嗅ぎ付けたようです。久方ぶりに食べ物の匂いを嗅いだせいか、みんなひどく殺気立っています。最近は本当に食料も少なくなったので、氷の大地に倒れたまま動かなくなる仲間も増えてきました。早く彼らの仲間入りをして楽になりたいところですが、あいにく死人の本能がそうさせてくれません。
最近になると、すっかり死人の数が人間を凌駕しています。それはそうです。こちらはワンサイドの将棋のように数を増やし、加速度的に減りゆく人間をさらに凄まじい勢いで減らしていくのですから。
そろそろ食料となる生身の人間がいなくなるのかもしれません。あまりに乱獲し過ぎてきましたから、個体数そのものが本当に少なくなっています。養殖のように高速で生ませて増やすという事も出来ませんから、そろそろウイルスが隆盛を誇り過ぎて宿主ごと殺してしまうあたりにいるのだと思います。まあどうでもいい事です。いよいよそうなれば私も安らかに眠れるという事ですから。
そんな事を思いながら雪の積もる廃墟をヒタヒタと歩いて行きました。他の死人はまだ私よりも生きようという意欲があるのか、どこか勇ましく見えます。
無気力に歩いて行くと、たしかに人間の匂いが近くから漂って来ました。どうやら無効にあるコンクリート製の廃屋から来ているようです。私達はまた血を求めて歩いて行きました。
死人に作戦などありません。ただただ地味に歩いていくだけです。積もった雪の中をシャリシャリと踏みしめながら、獲物がいると思しき廃屋を目指していきます。
その刹那、轟音が白い静寂を破りました。
振り返ると、仲間が爆風とともに空高く舞い上がっていました。四肢はもげ、黒くなった内臓がバラバラと降ってきました。
どうやら人間のかけた罠に嵌まったようです。
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