嫌な星新一賞
- 2018/04/23
- 14:30
「もう、働きたくねえよ」 長生優(ながお まさる)は公園のベンチでうなだれていた。 目の前では子連れの母親が楽しそうにママ友と談笑している。俺だってあんなに優雅な生活を送りたい。だけど、彼を取り囲む事情がそれを許さないのだ。 手元のタブレットを見てげんなりする。午後はまた何件も得意先に顔を出さないといけない。脳内で営業の絵図を思い描くが、まったく売れる気がしない。ナノ通信が小学生の間ですら主流とな...
嫌な短編「二次創作ノート」
- 2018/04/17
- 03:53
親父が、逮捕された。 新聞には父の悪行が面白おかしく文字となって踊り狂い、家はマスコミの人間と落書きやら下品な張り紙で埋め尽くされた。 罰……これが罰なのか。 親父の罪状は性犯罪だった。地方へ出張した際に、バス停にいた女子高生をレイプしたとのことだ。どこまで事実かわからない。というか、真相は知りたくない。 被害者には申し訳ないが、犯罪の被害を一番受けるのは被害者よりも犯人の家族なのかもしれない。品...
嫌な短編「慈愛」
- 2018/04/12
- 03:42
長く築いた歴史というのも、終わりの時を迎えると案外あっけないものです。 目の前に揺らめく炎を見て、しみじみと思いました。 私が初めて、母親らしいことをしてあげられた瞬間なのかもしれません。 博一(ひろかず)が生まれるまで、ずいぶんと苦労をしました。 嫁いだのは二十代前半でしたが、子供がなかなかできませんでした。 不妊治療に通ったり、あちこちから本を取り寄せて我が子の誕生を心待ちにしていましたが、...
嫌な短編「セピア色のアイドル」
- 2018/04/11
- 07:00
いや、まあ、刑事さん。今回はもちろん初めての人殺しなわけですけどねえ、人間が死ぬ時っていうのは実にあっけないものですねえ。 刺した時、もっとグッサリとひでえ音がするもんだと思っていましたが、実際には地味なドンという音。そして、何かが押し込まれるような感覚だけ。それも手ごたえの無さ過ぎる、妙な感覚でした。 相手っていやあ、悲痛な顔をするわけでもなく、下を向いて倒れたもんだからどんな顔をして死んでい...
スマホ短編「家族愛」
- 2017/06/03
- 12:33
「あれ、意味あるの?」 他人の価値観に水を差す趣味はないけれど、あんな光景を見るとつい毒突いてしまう。「一応、お散歩だから」 斎藤さんは意味もなく、困った顔で見知らぬ人のフォローする。 目の前にはベビーカーを引く男性。年かさは二十から三十ぐらい。平日の昼間からイクメンぶりを披露している。 仕事はしているのだろうか。自分がどんな目で見られているか気にするほど大人でもないらしい。 いや、私は世のイクメ...