たまにはセルパブ本の書評を、という事で牛野小雪氏の新作である「流星を打ち砕け」を取り上げようかと。本当はこのセルパブがすごいが出てからゆっくり読もうかと思っていましたが、kindleのページ数を見たら2~3日あれば読めそうな感じだったので一気読みしました。
久しぶりに俺の求めていた牛野小雪が戻って来た、というのが第一印象でした。
今作の特徴をものすごく簡単に説明するなら、四国をモデルにしたと思しき地方に流れ星が落ちるという災害が起きて、その中で生きていく藤原千秋と飼い猫のクッキーの視点で語られていく牛野ワールドといった話でしょうか。
作風で言うと「ターンワールド」に近いか。あのあたりの作品が好きな読者は安心して読めるかと。
先ほどにも書きましたけど、牛野小雪のファンが求めているというか、独特のまったり感の中でふいに見せる緊張感や酷薄さが今回復活したなと。
今だから正直に申し上げますが、「聖者の行進」はちょっと戸惑ったというか、昔好きだった妹系AV女優が「過去の自分を真似したくない」とまさかのハード路線で戻ってきたような、(応援はするけどさ。そこじゃないんだよね的な)どうリアクションすればいいか分からないところがあったんですけど(笑)、今回は期待している通りの牛野小雪が戻って来たというか、そんな感じでございます。
中身について触れると藤原千秋というこれまた普通というテンプレから外れ気味の女の子が被災したわりにはまったりと暮らしたり大胆に行動したりするんですけど、作品を通じて思う事はこの藤原千秋という女の子にとっては流星が落ちてこようが落ちてこまいが関係なかったのではないかという事でした。
なんとなしに生きていく事そのものに感じる息苦しさというか、何かのきっかけでひっそりと死んでいけるならそっちの方が楽なのかな、なんて思いを文章の呼吸から感じるのです。
その割には母親が目の前で死にそうになると慌てて助けに行ったり、夢見がちなところからハッと戻って来たりするわけですけど、そういう思春期の子供が持つ特有の感覚というか、夢見たり厭世観に浸ったり、いわゆるところ中二病なんだけど、それを自分の頭の中でひっそりと展開して表面には出さずに息を潜めて生きている的な、言ってる事はよく分からなくなりましたが(笑)息苦しさと不安がまったりとした文章の中に潜んでいる気がするのですね。
だからこそふいに誰かが死んだりすると、驚くとともに「ああ、やっぱり」的な気持ちになる事もあるし、たまに「ある日、牛野さんは思いつきで死んじゃいそうだな」という思いを呼び起こさせるような危うさがいくらか感じ取れる気がするのですね。
だから惹かれてしまうのかもしれません。
と、書いてて「書評関係なくね?」と思うような文章になってきたのでこの辺でやめますが(笑)、あっさり読んでもいいし、思いっきり穿った見方で読んでもいい作品とも思えます。
久しぶりに快作でしたね。
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